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課題集 ツゲ3 の山

○自由な題名 / 池新
○寒い日や雨の日 / 池新


★あまがえるどもは、 / 池新
 あまがえるどもは、はこんできた石にこしかけてため息をついたり、土の上に大の字になってねたりしています。そのかげぼうしは青く日がすきとおって地面に美しく落ちていました。団長はおこって急いで鉄の棒を取りに家の中にはいりますと、その間に、目をさましていたあまがえるは、ねていたものをゆり起こして、団長がまたでてきたときは、もうみんなちゃんと立っていました。カイロ団長がもうしました。
「なんだ。のろまども。今までかかってたったこれだけしか運ばないのか。なんというきさまらはいくじなしだ。おれなどは石の九百貫やそこら、三十分で運んで見せるぞ。」
「とても私らにはできません。私らはもう死にそうなんです。」
「えい。いくじなしめ。早く運べ。晩までにできなかったら、みんな警察へやってしまうぞ。警察ではシュッポンと首を切るぞ。ばかめ。」
 あまがえるはみんなやけくそになってさけびました。
「どうか早く警察へやってください。シュッポン、シュッポンと聞いているとなんだかおもしろいような気がします。」
 カイロ団長はおこってさけびだしました。
「えい、馬鹿者めいくじなしめ。えい、ガーアアアアアアアアア。」カイロ団長はなんだか変な顔をして口をパタンととじました。ところが、「ガーアアアアアアア」という音はまだつづいています。それはまったくカイロ団長ののどからでたのではありませんでした。かの青空高くひびきわたるかたつむりのメガホーンの声でした。王さまのあたらしい命令のさきぶれでした。
「そら、あたらしいご命令だ。」と、あまがえるもとのさまがえるも、急いでしゃんと立ちました。かたつむりのふくメガホーンの声はいともほがらかにひびきわたりました。
「王さまのあたらしいご命令。王さまのあたらしいご命令。一個条かじょう。ひとに物をいいつける方法。第一、ひとにものをいいつけるときはそのいいつけられるものの目方で自分のからだの目方をわって答を見つける。第二、いいつける仕事にその答をかける。第三、∵その仕事を一ぺん自分で二日間やってみる。以上。その通りやらないものは鳥の国へ引きわたす。」

(宮沢賢治「カイロ団長」)