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課題集 チカラシバ3 の山

○自由な題名 / 池新
○お父さんやお母さんと遊んだこと / 池新

○暑い日 / 池新
○まず尚行が / 池新
 まず尚行がピッチャーになり、真一がバッターボックスに入った。キャッチャーは、高志たかし、史郎たちが後ろをまもった。
「しっかり打ってくれよ。じゃないと、たいくつしちゃうからな」
 史郎が大きな声で言った。真一はむねがどきどきだ。なんとかうまく打って、史郎をびっくりさせてやりたいと思った。
 尚行は、スローボールを投げた。だが、真一がふりまわすバットは、ぜんぜんタイミングが合わない。
「もっと前にきてよ」と、真一は注文をつけた。
 ピッチャーは、さっきよりもっと注意深く、下手からゆるやかにほうった。するとバットは、ボールをかすめて、からぶりした。
「いいぞ、もうちょい!」
 だれかが声をかけた。真一は、背中がぞくぞくっとした。つぎにふったバットで、ボールは、てんてんと前にころがった。
「やったあ」と、真一はさけび、バットをほうりだして車いすをこいだ。史郎がグローブにボールをおさめて、ゆっくりとホームに返球した。キャッチャーが、がっちりつかんで「アウトー!」と、さけんだ。
 真一は、やっと一るいに達しただけだったが、またからだがぞくぞくっとした。
 こんどは、真一は守備にまわった。グローブをはめて、かまえてはみたものの、とても打球をとるのはむりだとわかった。だから魚あみ専門にした。
 真一のところにとんでくる球は、車いすにぶつかってはねかえる。すると、車いすがさっと近づいて、あみでボールをすくいとる。まるでバッタでも追いかけているようだ。みんなは、それがおかしくて笑った。
 ひとときがたって、みんな引きあげることになった。真一の新しいユニフォームには、すこし土のよごれがついた。真一は、とても満足していた。何といっても友だちといっしょにやる野球は、親子ふたりの野球とはぜんぜんちがったべつの満足感があった。尚行や史郎たちのほうも、いつもの野球とはちょっとちがう感じだった。でもこれはこれでおもしろいと思った。
 家に帰ると、洋子がおやつを用意してまちかまえていた。テーブ∵ルには、クッキーやチョコレート菓子がならび、ガラス皿にくだものがもられている。みんなは、はじめ目を見合わせて、悪いからとえんりょしようとした。
「なに言ってるの、せっかく用意したのに食べてくれなくちゃ、おばさん悲しいわよ」
「じゃあ、いただきまーす」
 洋子は、みんなのコップにジュースをつぎながら、
「どうもありがとうね、きょうのシンちゃん、ピカピカかがやいているわ」と言った。
「ぼく、大きいの打ったんだからね」と、真一はじまんげに言った。
「おばさん、ほんとにシンちゃんうまいんだよ」
 尚行が言うと、史郎もクッキーを口にほおばりながら、
「ほんとだよ、ぼくもびっくりしちゃった。車いすで野球ができるなんてすげえや」
と言った。真一は、自分専用の白いカップに顔を近づけて、ふとい曲がったストローでうまそうにジュースを飲んだ。

(山県喬「声援がきこえる」)