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課題集 テイカカズラ3 の山

○自由な題名 / 池新
○種まき / 池新
★給食、春を見つけた / 池新

○やわらかい毛皮と / 池新
 やわらかい毛皮とボタンのような目、エナメルのような鼻。コアラは、まったくだれをもひきつける魅力をもっています。だいてほおずりしたい、と思わない人はいないでしょう。 (中略)
 コアラという名まえは、「のまない」という意味の原住民のよび名からきていますが、じっさい、コアラは必要とする水分のすべてを、ユーカリの葉からとっているのです。
 おさないうちにつかまえられたコアラは、おとなしくて人なつっこいペットにそだつものです。じっさいには、のんきでお人よしというより、無気力というほうがあたっているかもしれません。コアラは、ぶしょうで動きもにぶく、人間をおそれません。木にだきついている一頭のコアラを懐中電燈でてらしても、他の動物たちのように、安全な場所へにげようとあわてることもなく、むしろ、ぼんやりとながめかえすほどなのです。攻撃しやすいことと、その毛皮に人気があるために、今世紀はじめの数年間に、たいへんな数のコアラが殺されました。一九ニ○年から一九ニ一年のあいだに、二十万頭以上のコアラの皮が、オーストラリアの毛皮市場にあらわれ、三年後には、二百万頭をこえる毛皮が輸出されました。
 コアラはもう、西部オーストラリアでは見られなくなりました。いまでは、ニュー・サウス・ウェールズ、クイーンズランド、それにビクトリアといった東部や南部の州で、保護される立場になりました。とくべつの保護区でそだてられ、ときには、きゅうに数がへったり、まるでいなくなった地域にふたたびつれてこられてきたのです。でも、コアラの数がふえつつあることは、こんな道路標識があらわれるようになったことでわかります。
 コアラが道路を横ぎったりするのは、他の木にうつりたいときだけです。コアラは、一生を木の上ですごします。おもな食物はあるかぎられた種類のユーカリの生長しきった葉です。コアラは、自然界でいちばんたべものにうるさい動物なのです。ある動物園の飼育係は、コアラに食事をさせるいちばんいい方法は、いろいろなユーカリの葉をバイキング方式であたえて、自分の好みのものを見つけださせることだ、といっています。親指が他の指とむかいあわせに∵なった指と、するどいつめをもっているので、コアラは木の幹や枝の上で、すばやく動くことができます。また、繊維の多い葉をしめらせて消化しやすくするための袋を、ほおの内がわにもっています。かれらは、夜行動し、昼は枝のあいだでうつらうつらしてすごし、夜になると、好物の葉を1キロもたべて夜が明けるまでをすごすのです。
 カンガルーの赤んぼうとおなじように、コアラの子どもも、うまれるとすぐ、目が見えないままで、母親の毛皮のなかを行進しなければなりません。最初の六か月間をすごす育児のうを見つけるためです。育児のうは、うしろむきになっています。これは、木のぼりをする動物にとって、あまりつごうのよいことではありません。六か月間、袋の中で生活したあとで、コアラの子どもは、おかあさんの肩にうつります。三さいか四さいでおとなになり、なかには二十さいまでなが生きしたものもいます。成長しきったコアラの体重は、約十キロです。
 オーストラリアの野生生物管理官が、コアラたちを移動させる目的でわなをかけるときには、さきのほうにくくりむすびのついた、長いさおをつかいます。不安にみちた移動であるはずなのに、コアラたちは、おどろくほどおちついて行動をする、と管理官は報告しています。しかし、新しいすみかとなるはずの木の下についても、しっしっとおいあげられないと、木の幹にのぼろうとしないのです。
 コアラをペットとしてかったことのある人は、コアラが、鏡にとくべつの興味をしめすようだ、といっています。鏡にうつった自分の毛むくじゃらの姿を、ながい時間、あきるようすもなくじっと見つめているのだそうです。それは、まるで、コアラが人をひきつける魅力をもった動物であることを知っているように見えたし、どうやらそれを自分でもあじわっているようだった、というのです。
(ドナルド・ディル・ジャクソン 岩倉徳光「世界の野生生物」)