課題集 テイカカズラ3 の山
苗
絵
林
丘
○自由な題名
/池
池新
○寒い朝、体がぽかぽか
/池
池新
★正三と石を投げた少年とは
/池
池新
正三と石を投げた少年とは、とうとう顔をつき合わせるところまできてしまった。
「おい。」
さきに声をかけたのは、相手の少年だ。
「いま、なんていった。」
すごい顔をしている。
正三は、はじめ自分と同じ年くらいと思ったが、近くで見ると、相手はどうも五年生か六年生くらいの大きさだ。色が黒くて、とても意地の悪そうなやつだ。
(これは、やっかいなことになったぞ。)
正三は、ほんとういうと、すこしこわくなってきた。けんかをやれば、むこうのほうが強いにきまっている。それに正三は、これまでけんかというものをしたことがないのだ。
(なぐられるかもしれんな。)
だが、正三はやせがまんをはった。
「石を投げるなといったんだ。」
「なに?」
相手の目がきらりと光った。
「なんだと。よけいなお世話だ。」
その声を聞いたとたん、正三の目には相手がきゅうにおそろしいおとなのように見えてきた。
(あぶない。早く逃げろ!)
正三の中で、そういう声が聞こえる。
そいつは、じりじりと正三に近づいて来た。正三はいまにもくるりとうしろを向いて走りだしたかったが、やっとがんばってそこにつっ立った。
「あれは、ぼくのひばりだ。」
正三は、自分でも思いがけないことをいったのである。
「なに? おまえのひばりだと。」
「そうだ。あれは、ぼくが飼っているひばりの子だ。らんぼうなことはしないでくれたまえ。」
相手は、おどろいて正三の顔を見た。
「おまえのひばりだと?」
相手の少年は、あきれたようにいった。
「うん。あれは、ぼくのひばりなんだ。」
断固としてそういうと正三は、ゆっくりとしばふのほうを見て、どうやらひばりの子はそのあいだに麦畑にぶじに帰ったことをたしかめると、さっさと家のほうへ引き返した。∵
敵は正三のあとを追っかけて来るかと思ったが、「ちぇっ。でたらめいってやがる。」といっただけで、向こうへ行ってしまった。
正三はほっとした。
(ああ、よかった。あぶないところだったな。)
それから、とっさの時に、どうしてあんなことをいいだしたのだろうかと思うと、なんだかおかしくなってきた。
ふしぎなもので、こちらがへんなことをいったものだから、いまにもなぐりそうに勢いこんでいた相手のほうでは、はぐらかされて手出しができなくなったのだ。
「ああ、愉快、愉快。」
正三はしだいに得意な気持ちになって、ひとりごとをいった。
「なつめは、学校の帰りにときどき、いじめっ子に会うといってるが、あいつがそうかもしれないな。一ぱつ、くらわしてやればよかったな。」
(庄野潤三「ひばりの子」)