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課題集 テイカカズラ3 の山

○自由な題名 / 池新
○クリスマス、おおみそか、お正月 / 池新
★休み時間、お父(母)さんとあそんだこと / 池新

○ゆうれい電車 / 池新
「ゆうれい電車ぁ。」
「ゆうれいっ。」
「えーっ、何よ、それ。」
 ぼくらは、「ゆうれい電車」ということばそのものに、こうふんして、しまった。
「ぼくひとりでさ、九回ためしてみて、九回とも同じようなことが起こった。それで、どうしてもみんなに、たしかめてほしかったんだよ。」
 ぶると君だけがおちついて、説明している。
「くらいところから写真を取り出すのが、早いかおそいかで、中の電車は、横を向いたところだったり、しっぽのほうだけだったり、もう走りすぎていて、まったく写っていなかったりするんだ。明るいところでは、写真はずーっと変わらない。」
「あらやだ。わたしの耳のあなって、きゅうにふさがっちゃったのかしら。ぶると君の言ってることが、のうみそまで、ちっともとどいてこないわ。」
 はら子が、自分の耳をほじってみせた。
「いやはや、はやいや、おれの頭ん中は、もう大こんらん、ぜんぶ赤信号だぜ。」
 にせご君がためいきまじりにいった。ぼくも、のうみそがどろのかたまりになったような気分だった。「ざざざあーっ。」という外の夕立の音が、じかに頭の中にまでひびいてきて、のうみそまで流されそうだった。
「ぶると君の言うとおり、写真の中で電車が動いたんだとしてさ、それじゃ、この写真はいったいぜんたい、だれが写したの。ぶると君、きみが写した?」
 はら子がぶると君に人さし指をつきつけた。
「ぼくじゃないよ。この写真は兄きのへやにあったのを、だまって持ち出したものなんだ。兄きか、兄きの友だちが写したんじゃないかな。まだ兄きには聞かないでいるんだけど。」
「そう。それじゃ、あなたの兄さんにじかに聞いたほうがてっとり早いわけだけど、写真がほんものなら、その元には、ほんもののゆうれい電車があるってわけでしょ。つまり、ほんものの「ゆうれい電車」がさ。」
 はら子が、みんなの気にかかっていたことを、ずばり口に出していった。
「そ、そうなんだ。たしかにほんものがあるはずなのさ。そん∵なのが、まいばん動いているのかとおもうとね、ぼかぁ、夜中に眠れなくなっちゃうんだ。」
「ぱんっ。」
 はら子が、両手をならした。
「よーし、ぶると君のなやみも、みんなのなやみも、いっぺんに解決するには、ほんものの「ゆうれい電車」をつきとめるしかないわよ。それには、まず、ぶると君の兄さんに聞いてみることね。きょう、兄きはいるの?」
「ああ、きょうは予備校を休んで、うちにいるはずだよ。」

(杉山径一「ゆうれい電車を見た!」)