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課題集 タラ3 の山

○自由な題名 / 池新
○家で飼(か)っている生き物のこと / 池新


★ベランダに、一羽のハトが / 池新
 ベランダに、一羽のハトが迷いこんだのは、二月末の夕方だった。
「おーい、たつひこ、ハトがいるぞ。」
 ぼくが自分の部屋で模型飛行機の修理をしているときに、居間の方からお父さんの声がした。
「ちょっと待っててよ。今、大事な所を接着しているんだから。」
 ぼくは、水平尾翼の部分を強く手でおさえてから、飛行機をゆっくりつくえの上においた。
 お父さんが、窓からベランダの方をのぞいている。
「どうしたの。」
「ほら、あそこに……。」
 ぼくは、お父さんの肩ごしに外を見た。
 お父さんが指さす先には、灰色の翼に二本の黒い線の入ったハトが、ベランダのすみで頭を胴体にうめてうずくまっていた。
「動けないみたいだね。」
「レースの途中でつかれてしまったのかな?」
「レースって?」
「ああ、たくさんのハトを集めて遠くからいっせいに飛ばして競争させるんだよ。もし、レース用のハトならゴムの脚環をつけているはずなんだよ。でも、足のところまで見えないな。」
「どうする?」
 ぼくは心配になった。以前、カナリアを飼っていたとき、運悪くにがしてしまい、庭のへいに止まったところをのらネコにおそわれたことを思い出したからだ。
「このままじゃ、死んでしまうかもしれないぞ。」
「なんとかしなくちゃ。」
 ぼくは窓を開けようとした。
「あわてるなよ。」
 お父さんは、ぼくの肩を後ろからおさえた。
 ぼくは、早くハトをつかまえたかった。死んでしまうかもしれないと思ったからだ。
(田辺政美「ぼくらの青空通信」)