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課題集 ススキ の山

○自由な題名 / 池新
◎おいしかったことやまずかったこと / 池新
★ないしょの話、なにかをかんさつしたこと / 池新

うすいピンクの桜貝 / 池新
 【1】私が小さい頃から大切にしているものは貝殻です。大切にしているだけではなくて、今も集めているので、大切にしているものはどんどん増えていきます。
 最初に貝殻をもらったのは、たぶん幼稚園の年中のときです。【2】伊豆にあるお父さんの会社の保養所ほようじょでお泊まりをしたときです。きれいな伊豆の海には広い砂浜があって、私は、そこでよく砂の山を作って遊びました。砂の山を固めたあと、真ん中を掘ってトンネルにするのが大好きでした。
 【3】私は、浮輪をしても波が怖かったので、あまり海には入らないで砂遊びばかりしていました。砂を掘っていたら、小さい貝や貝のかけらがたくさんみつかりました。私はそれを洗ったアイスのカップに集めました。
 【4】そのときも私が砂を掘っていたら、赤い水着を着たお姉さんがやって来て、
「たくさん集めたね。これきれいでしょう。桜貝というのよ。」
と、ピンクの二枚貝をくれました。すけて見えそうなうすい貝で、まるで貝のお姫様のようでした。【5】私はうれしくて、ありがとうと言いたかったけれどはずかしくて言えませんでした。代わりに横にいたお父さんがお礼を言いました。
 夕ごはんのとき、お母さんにそのことを話しながら桜貝を見せました。【6】お母さんは、
「あら、ほんと。こんなにきれいな桜貝ってあんまりないのよねえ。よかったわね。」
と言って、そっと桜貝を手に乗せました。そして、
「これねえ、うすくてわれやすいから、何かでつつんでおいた方がいいね。」
と、ティッシュを出して、そっとつつんでくれました。∵
 【7】私は、ちょっと緊張しながら、何度もそのティッシュをあけて、桜貝を見ました。寝るまでに三十回ぐらいは見たと思います。ほんとうにきれいで、何回見てもあきませんでした。その夜は、うれしくてなかなか眠れませんでした。
 【8】大事に持って帰った桜貝ですが、いつだったかティッシュから出して、ほかの貝といっしょにテーブルに並べて遊んでいるとき、つまみあげた指先にちょっと力が入りすぎて、片方のはしが欠けてしまいました。
 【9】その後、自分で海で拾ったり、誰かにおみやげでもらったり、鎌倉のお店で買ったりして、貝殻はどんどん増えていきました。でも、やっぱりいちばん大切にしているのは、はしが少し欠けたあの桜貝です。私は、今も時々、桜貝の入った宝石箱を開けて見ています。【0】

(言葉の森長文ちょうぶん作成委員会 φ)