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課題集 シオン3 の山

○自由な題名 / 池新
○お手伝いをしたこと / 池新

○くたびれたこと / 池新
○時間の不思議 / 池新
 私たちは時間がいつも同じように流れていくことを信じて疑いません。時間は常に同じ速さで未来へ向かって流れ続け、場所によって変わったり、季節によって変わったりすることなどあり得ないと思っています。
 しかし、アインシュタインのとなえた相対性理論によれば、時間というものは絶対のもの、つまり普段私たちが考えているように確かなものではないのです。重力や空間などとの関係からさまざまに変化してしまう、意外にも頼りない存在のようです。
 この理論では、速い速度で動いているものの時間は、止まっているものの時間より遅く進みます。ただ、この場合の「速い」というのは、光の速さに近い超高速ということです。
 たとえば、光速の九十パーセント、時速九億キロメートルで飛ぶロケットがあるとします。それはジェット機の約一万倍のスピードです。このロケットに乗っている人には、地球上よりも時間がゆっくりと流れます。この場合、ロケットの中での一年は、地球での二、三年分に当たります。もし、本当にそんなロケット旅行をしたら、「行ってきまあす」と言って一年後、家に帰ってみると、なんとひとつ年下のはずの弟より若くなっていた、ということが起こります。これが何十年も宇宙旅行をしたなら、どうでしょう。地球に帰ってはきたものの、知った顔はだれもなく、まさに浦島太郎になった気分でしょう。
 また、ブラックホールでは、あまりにも強力な重力のために、時間も空間も大きくゆがんでいると言われています。例えば仮に、勇気のある人がブラックホールに飛び込んだとします。そうすると、その人にとっては吸い込まれていく数秒のことが、遠く離れた地球から見ると、数千年も数万年もの時間になるのです。数万年という長さは、人間にとっては無限に近い、つまり時間が止まっているのも同じということで、ブラックホールは「凍りついた星」と∵よばれることもあります。
 しかし、ロケット旅行やブラックホールなどは、普通の生活からはかけはなれたことです。では、相対性理論とは、私たちには関係のない本の中だけの話でしょうか。
 最近目にすることの多いカー・ナビゲーションは、人工衛星からの電波を受けて、車の位置を計算するシステムです。ところで、人工衛星は地球上に比べるとはるかに重力の弱いところを、しかも高速で飛んでいます。ということは、地球とは時間の進み方が、わずかにずれているということです。そこで登場するのがこの相対性理論です。これによって時間のずれは直され、カーナビは正しい車の位置を教えてくれます。
 ところで、このような難しい理論を考えるまでもなく、人間の意識の中で、時間は自由に伸び縮みします。友達と遊ぶ楽しい時間はあっという間に過ぎるのに、お説教を聞いている時間は無限に長く感じる、というのはよくあることです。また、昔住んでいた家のことをはっきりと思い出したり、十年後の格好いい自分の姿を思い描いたりなど、頭の中で時間は自由に流れます。
 目に見えず、手で触れることもできないのに、感じられ、信じられる時間。しかし、あたり前だと思い込んでいるものの正体を疑ってかかると、世界はまた違った顔を見せてくれるかもしれません。

「光速に近くなると、世界の様子は違って見えるのですね。」
「ソウ。タイセイつなのは、これまでの見方にとらわれないことじゃ。」

 言葉の森長文ちょうぶん作成委員会(α)