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課題集 セリ3 の山

○自由な題名 / 池新
○バレンタインデー、もうすぐ春が / 池新


○赤ちゃんの音の世界 / 池新
 生まれたての赤ちゃんも、耳は聞こえます。しかし、赤ちゃんは、自分の耳にひびいてくるものが何かは、まったくわかりません。
 たとえば、ドアが「バタン」としまる音がします。赤ちゃんにはその音は聞こえますが、それが「ドア」が「しまった」ときの音ということはわかりません。「ドア」というものをまだ知らないからです。
 赤ちゃんに世界がどう聞こえるかについては、さまざまな研究がされてきました。
 赤ちゃんの耳に聞こえるものは、赤ちゃんの頭の中で、いつまでもこだまのようにひびいています。生まれて一ヶ月の赤ちゃんの耳の中は、あちこちでお寺のかねがなりひびいているような、こだまだらけの音の世界です。その中から、少しずつ、いろいろな音を聞き分けられるようになります。ですから、赤ちゃんは、はっきり、ゆっくりしゃべってくれる声がすきです。
 大人たちが、赤ちゃんにいっしょうけんめい話しかけるとき、よく赤ちゃんことばを使います。いつもより、高い大きい声で、ことばをやさしくして、みじかくくぎりながら話しかけます。たとえば、
「ごはんは、おいしかったですか? たくさん食べられていいこですね。」
と話しかけるより、
「まんま、おいしい? いっぱい、たべたね。いいこ、いいこ。」
と言ってあげます。赤ちゃんにとっては、このような話しかけ方のほうが親切なのです。
 赤ちゃんは、ゆっくりはっきりしゃべってくれると、ぼんやりしたこだまのひびきの中からことばを聞きわけることができます。生まれて四ヶ月くらいになると、大人どうしの会話より、赤ちゃんことばで話しかけてくれるほうをあきらかに聞きたがるようになります。ぼんやりしたこだまより、はっきり聞こえてくる音をつかまえるほうがおもしろいし、安心するからです。
 ところで、赤ちゃんの耳には、大人のまねできない能力もあります。
 赤ちゃんは、世界中で話されているどんなことばの音も聞き分けることができます。たとえば、日本人はよく英語で「L」と∵「R」の発音が区別できないと言われます。フランス人は、「ハヒフヘホ」という音が出せません。そのほかにも、「ダヂヅデド」という音が出せない国など、国によってさまざまなことばがあります。しかし、赤ちゃんは、そのすべての音を聞き分けられます。赤ちゃんは外国語の天才といえるかもしれません。
 赤ちゃんのときはだれでも、世界中のことばを聞きわけることができ、声に出すこともできていたというわけです。けれども、赤ちゃんはそのうちに、自分のまわりでよく使われていることばの音だけを聞き取るようになってきます。
 赤ちゃんのころには、「東京特許許可局」や「蛙ぴょこぴょこぴょこぴょこ合わせてぴょこぴょこぴょこぴょこ」なども、すらすら言えたのかもしれません。

 言葉の森長文ちょうぶん作成委員会(λ)