昨日795 今日1232 合計157848
課題集 ヌルデ3 の山

○自由な題名 / 池新
○もうすぐクリスマス(お正月) / 池新


★しかし、花が / 池新
 しかし、花がいくら甘い蜜をたくさん持っていても、昆虫に寄ってきて吸ってもらわない限り、その魅力を伝えることはできません。まず花の存在を認識してもらう必要があるのです。
 それには、花の色や形、香りで、昆虫を引き寄せる必要があります。花にとって外見は、昆虫や鳥を引き寄せるための最も重要な要素なのです。
 「あばたもエクボ」ということばは、動物にもあてはまり、彼らの植物の好みもさまざまです。だからこそ、これだけ多種多様の植物が生存しているといえるでしょう。赤い花が好きな動物もいれば、黄色い花が好きな動物もいます。大きな花が好きな動物もいれば、小さな花が好きな動物もいます。
 香りについても、人間がいい香りだと感じるものだけが好まれているわけではありません。かぐわしい香り、臭い香り、その両方を好む動物がいるからこそ、多くの植物が生き残っていけるのです。
 ガの仲間は、夕方から夜間にかけて活動するので、夕方から咲く花に集まります。夜咲く花の場合、暗くて花の色はあまり役立たないので、その分、いい香りを発して昆虫を呼ぶという特徴があります。
 香りは、気温が高いほど気化します。夜は昼に比べて気温が低くなるので、夕方から夜にかけて咲く花は、昼間に咲く花以上に強い香りをもつ必要があるのです。オオマツヨイグサ、ヨルガオ、カラスウリ、スイカズラなど、夜咲く花たちは、いずれも甘く強い香りを持っています。
 また、夜咲く花の多くは、白や黄色っぽい色をしています。これは、薄明かりの中でも識別でき、夜目にもよく映るからです。昼間ならよく目立つ青色や赤色は夕闇にまぎれると、ぼんやりとして色が浮き上がってきません。実際、夜に咲く青色や赤色の花がないのは、こうしたデメリットがあって、昆虫たちに注目されず、たと∵えそういう花を咲かせる植物が現れたとしても、存命しえなかったのではないでしょうか。
 いい香りとは対照的に腐ったような匂い、いわゆる腐敗臭を漂わす花もありますが、そういう匂いを好んでくる昆虫もいます。(中略)
 人間の感じるいい香りだけが、昆虫を引き寄せるとは限らないのです。このことからも花の香りは、それぞれ昆虫に花の存在を知らせる信号であって、決してヒトのためではないことがわかります。
 花の中には、ほとんど香りのしないものもありますが、こうした種類は、香り以外の色や形などの魅力で、動物たちを呼び寄せています。鳥は鮮やかな赤を好むといいましたが、鳥は匂いには鈍感で、鳥によって花粉を運んでもらっている花は、ほとんど香りのないものが多いのです。
 動物が花を選ぶ基準には、彼らの嗜好の他に、植物との相性もあげられます。
 たとえば、ある花は、ある昆虫にしかうまく蜜が吸ってもらえないような作りをしています。その昆虫は、別の花へ行っても上手に蜜を吸うことができませんし、他の昆虫がその花の蜜を吸いに来ても、蜜のところまで口が届かないようになっています。
 このように、ある特定のもの同士、非常に密接なつながりを持っているケースは、その昆虫にとっても、花にとっても、互いだけが頼りになります。
 植物は、花粉を仲間の花に送り届けるため、動物は花蜜や花粉を効率よく集めるため、植物と動物は、実に見事な関係を作り上げ、共存共栄してきたといえます。

(武田幸作「アジサイはなぜ七色に変わるのか?」)