昨日795 今日1115 合計157731
課題集 ヌルデ3 の山

○自由な題名 / 池新
◎いたずらをしたこと / 池新
★木登りをしたこと、わたしの好きな食べ物 / 池新

○本当にしかしこの三人組は / 池新
 本当にしかしこの三人組はそれからも間断なくいろんなことをやってくれた。近所の養鶏所の病気や体の弱った鶏だけを入れておく囲いをあけ、二十数羽の鶏を道路へそっくり逃げ出させてしまった時は私が仕事で出張中で、妻と健二郎君の母親が必死になって鶏を回収して歩いたらしい。
 この時は養鶏所の入り口の囲いを修理しているさなかだったので、まあこれは仕方がありませんよ、といかにも人のいい老経営者が言ってくれたので、それ以上の騒動にはならなかったという話だった。
 イタズラは三人のうちの誰が首謀者ということでもなく、三人集まるとごくごく自然にそういう面白い「仕事」を発見してしまうようであった。
 そうして彼らがまきおこしてくれた次の一件はサツマイモ騒動というものであった。(中略)
 仕事をすませて帰ってくるともう夕方近くになっていた。私の妻はその日職場の保母の研修会があるとかで、夕食は私がつくる約束になっていた。私鉄駅の近くのマーケットで肉と野菜を買い、ビールが切れているのを思い出して缶ビールも半ダースほど買った。そうして急いで家に帰ってくると、どうしたわけなのか家の門の前にさつま芋が山のように積まれていたのだ。その芋はいずれも土まみれでまさにそっくり全部いましがた掘りおこしてきたばかりです、という状態であった。
「はて、これはどうしたのだろう?」と首をかしげているうちに、例の三人組が裏庭からどんどん飛び出してきた。みるとまたもや三人揃って泥だらけになっている。
「あのね、これね、今日みんなで取ってきたんだ」
 とがくが私の前ですこしそりかえり、自慢げに言った。
「三人で力をあわせたんだ」
と、健二郎君がすっかりとは舌の回らないキンキン声で言った。∵
「これを……どこから?」
 そう言ってから、私の頭の中によくない予想がはげしくするどく迫ってきた。そう思ったのと同時にクルリとふり返ると、私の予想がまさしく大命中である、ということがわかった。
 すなわちわが家の前の芋畑が見事に掘り返されているのである。
「うひゃ」と私はうめき、その前で泥だらけの三人組はますます得意そうにそりかえった。
「ああ、おまえたち……」
 と、私は言った。
 それからが大変であった。調べてみると掘り返されたのは三うねそっくりで、それだけでもかなりの分量である。
 昇君がわけを話しに家に帰り、健二郎君の母親がまた私の家にやってきた。「ああ、こんなに……」と健二郎の母親は前かけを両手で握りしめいまにも泣きだしてしまいそうな顔をした。足の早い夕暮があたりの薄闇を急速に深めていた。
「どうしましょう……」
 と、健二郎の母親はひくい声で言い、私の顔を見つめながらいまにも本当に泣きだしそうにぎゅっと唇を引きしめていた。
「なんとかしましょう。大丈夫ですよ」
 と、私は言った。しかしそうはいってもあまり自信はなかった。あやまって先方の農家に引きとってもらうか、あるいはこちらで掘りおこした分を買うかそのどちらかしか方法はないような気がした。具合の悪いことに、その芋畑の主は、このへんでも有名なケチで頑固者という噂だった。そうして畑のなかに子供たちがたびたび入って荒す、と言って何度か私の家などに文句を言いにきていたのでもある。


(椎名誠「がく物語」)