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課題集 ザクロ3 の山

○自由な題名 / 池新
○マスコミ / 池新
★清書(せいしょ) / 池新

○「私が結婚相手に望む経済力は / 池新
 「私が結婚相手に望む経済力は、そんなに大きなものではありません。ただ私と子ども二人が安心して暮らせる程度でいいのです。子どもには小さいときから習い事をさせてやりたいです。お金がないからといって子どもにみじめな思いをさせるのだけは絶対にいやです。そして、子ども二人を私立大学に行かせてやれるくらいの給料は求めます(だって、私もそうしてもらったので当然だと思います)。月に一回は外食し(もちろんまわるお寿司ではなく、お洒落なイタリアンとかです)、年に一回は海外旅行に行く。そういう程度の経済力です。私には玉の輿願望はありません。私の両親が夫の両親に対し、肩身の狭い思いをするのはいやなので、軽い玉の輿程度で十分です。もちろん夫は真面目に働く人でないと困ります。ちょっといやなことがあると会社を辞めるとかされたりすると、とても困ります。それから、土曜日には子どもを連れて公園でサッカーしたり、川の堤防の下でキャッチボールしたりするのを、私は堤防の草むらに坐って眺めるのが夢です。それから、煙草を吸う人は絶対にお断りです。本人よりも周りにいる私や子どもたちの受動喫煙が怖いからです。家族(子どもと私の両親)を大事にして、結婚記念日とかは絶対に覚えていてくれないといやです。あとDVとかして、暴力を振るう人ももちろんお断りです。まだ、他にもありますが、先生が三つまでと言われたので、このくらいにしておきます」
 言っておくが、これは学生の書いたものを合成したり、特定の個人のものを意図的に抽出したりしたものではない。みんなみんな、こう書いてくるのである。なんでここまで同じなのか、私が聞きたいくらいである。この女子学生の結婚願望を男子学生に紹介すると、教室中に「冬虫夏草」みたいな菌糸状のものが浮遊する。漠然とした怒りと不安めいたものだ。
 こういう、学生の書いたものを何年も多数読んできて、私はこの国の晩婚化は止まらないと思ったのである。今は、まだ晩婚化で済んでいるが、これから非婚率の上昇も必至である。就職難と結婚難が、双子になってやってくる。
 男の子は、正社員として就職できずにフリーターになれば結婚で∵きない。結婚できないで家庭を持てないから、就労意欲が低下し、ますます離職が促進される。女の子は、正社員で就労意欲の高い、ついでに給料も高い男性目指して、「容貌偏差値」を上げるのに余念がない。しかし、「実用偏差値」はきわめて低い。料理を作ったことがない。ご飯を炊いたことがないという女子は多い。なぜなら、女子学生の母親は「女は、結婚するといやでも家事をしなければいけないから、家にいるうちはそんな苦労をさせたくない」と、娘に家事をさせないからである。むしろ、男子学生の母親の方に「将来、息子が結婚したら、奥さんも働いている可能性が高いので、男も家事ができなければならないので、今から教えている」と語るケースが多かった。だから、男の子の方が、基本的な炊事はできるのである。現在、大学生はとても忙しい。授業以外に専門学校に行き、アルバイトもしている。
 「バイトで深夜の十二時にアパートに帰り、カップ麺を食べていると侘しくなり、就職してもこういう生活かと思うと、家に帰ったときにはやはり誰か人の気配があってほしいなと思います」
 こういうことを女子学生が書いてきたケースは一回もない。男子学生にのみ見られる。こういう生活実感から来る結婚への憧れは、だからこそディテールに凝った具体的なものになるのであろう。

(小倉千加子『結婚の条件』)