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課題集 ニシキギ の山


 堤防(ていぼう)ができると

 堤防(ていぼう)ができると、人びとは安心して、まわりの土地にあつまってきます。森林や水田がつぶされて、家や工場がたてられます。いままで、水につかっていた土地にも、たてものがたてられます。そのぶんだけ水はいちどにどっと、川へおしよせることになりました。そのぶんだけ、川のこうずいがふえたのです。水のいきおいもましたのです。
 それでも川は、けんめいにがまんしてくれました。でも十年か二十年に一度、大雨がやってくると、川はついにおこりだしました。
「おれの領分(りょうぶん)の土地をよこせ。土地はもともと川のものなのだぞ。」と。
 しかし人びとは、どうしても川をおさえこもうとしました。だれもが、水につかるのはいやでした。「堤防をもっと高く。」「もっとのばせ。」とさけびました。堤防は上流へ、支流へとどんどんのびていきました。
 堤防が上流や支流へのびると、そのまわりの土地もひらけました。町は大きくなり発展しました。こんどこそだいじょうぶだろうと、だれもが考えました。何十年かたちました。するとまたまえには考えられなかったような大水害がおこりました。ふった雨がもっとたくさん、川へすてられることになったからです。
 大水害は何十年、何百年に一度やってきます。いまのところしずかな川も、このさき、どんな大あばれをするかしれません。そして、いたちごっこは、いまもつづけられているのです。
 みなさんはもう、このへんで川の見かたが、かわってきたと思います。もういちど川へでて、川のようすをかんさつしてみましょう。川の水は、ふだんは、すこししかながれていませんね。雨が、いちどにすてられてしまうからです。ふだんは、すこししかながれないのに、堤防は高いですね。大雨のときには、それほどの水が、川いっぱいにおしこめられて、海へとっしんしていくということです。

「川は生きている」(富山和子)より抜粋編集