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課題集 ネコヤナギ3 の山

○自由な題名 / 池新
○新学期、冬休みの思い出 / 池新
○忘れ物をしたこと、寒い朝 / 池新

★一九四九年、西ドイツの / 池新
 一九四九年、西ドイツのクラマーという動物学者は、渡り鳥と太陽の関係について、ちょっとかわった実験をしました。
 当時、渡り鳥をつかまえカゴの中に飼っておくと、ちょうど渡りの季節になると、鳥たちはソワソワと落ちつかなくなり、カゴから飛びだしてしまいそうなほど活動的になることが知られていました。しかも、このような鳥たちは、カゴの中にいても、おもしろいことに本来渡ってゆく方向に頭を向けているのです。
 クラマーは、渡り鳥のこんな性格を利用しました。彼はまず、ちょっとかわった鳥カゴを用意しました。鳥カゴといってもドラム缶のようなもので、天井も側面も全部ふさがれています。底は透明になっており、クラマーはカゴの下にもぐりこんで、下から観察します。彼は鳥カゴの側面に六つの窓をあけ、一羽の鳥を中のとまり木に置きました。鳥は六つの窓からだけ外が見られるというわけです。ただ、窓はずっと高いところにつくられていたので、鳥は空を見ることはできますが、そのほかの景色はまったく見ることができませんでした。もし、鳥が景色を見て方向を決めたなら、何の意味もなくなってしまうからです。
 実験には、ホシムクドリという鳥が使われました。ホシムクドリは、ヨーロッパとアフリカの間を行き来する渡り鳥です。渡りの季節になると、とても活動的になることで知られています。クラマーはまず、晴れた日とくもりの日で、ホシムクドリの行動にちがいがあるかどうか見てみました。太陽がでている日とでていない日で、どんなちがいがあるかを見てみようというわけです。
 さて、カゴの底にもぐりこんで、一〇秒ごとに鳥が頭を向ける方向を記録してゆくと、クラマーはおもしろい結果をえました。ホシムクドリは、晴れた日には、ほぼ渡りの方向ばかりに頭を向けているのに、くもっている日には、ある決まった方向に頭を向けるのではなく、まるで困ったように六つの窓それぞれに頭を向けるのです。いかにも方向がわからずにあちこち迷っているみたいです。
 これは太陽が何か関係していると思わないではいられません。太陽がでている日には、渡りの方向がわかりますが、くもりの日にはそれができないのだと思えるのです。
 クラマーはさらに実験をつづけました。∵
 実は、この鳥カゴには、特別なくふうがしてありました。というのは、六つの窓それぞれに反射鏡をとりつけ、太陽光線の向きが自由に変えられるようになっていたのです。ホシムクドリには、反射鏡でまげられた光がほんものの太陽の光に思えます。
 実験はもちろん、晴れた日におこなわれました。渡りに出発したくてウズウズしているホシムクドリは、やはり渡りの方向に頭を向けています。さて、太陽光線の向きがかえられると、ホシムクドリはどうするでしょう。
 クラマーはいよいよ、鳥カゴの六つの窓の反射鏡をとりつけ、光の向きを変えました。彼は、太陽の光がちょうど九〇度まげられるように反射鏡をセットしました。そして、またカゴの底にもぐりこんで観察しました。すると、ホシムクドリはなんと光の向きにあわせ、ちょうど九〇度回転した方向に頭を向けていました。ホシムクドリは、はいってくる光にあわせ、みごとに向きを変えたのです。
 さらに、太陽の光を反射鏡で反対方向に九〇度まげても、ホシムクドリはそのとおりに向きを変えました。ホシムクドリにとっては、窓からはいってくる光だけがたよりです。彼らは太陽の光を目じるしにして方向を決めていたのです。

(倉橋和彦「渡り鳥」)