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課題集 ネコヤナギ3 の山

○自由な題名 / 池新
○クリスマス、おおみそか / 池新
★お正月、私の宝物、休み時間 / 池新

○渡り鳥は毎年 / 池新
 渡り鳥は毎年、同じ巣にもどってくるといわれています。これまでの標識調査などによると、実際、同じ巣にもどってくる例はたくさん報告されています。何百キロ、何千キロという長い距離を飛んで、また同じ場所にもどってくるのですから、彼らはよほど正確な地図をもっているといわねばなりません。それと同時に渡りの方向を知るためのとびきり正確なコンパス(ら針盤しんばん)ももっていることになります。
 彼らはいったいどうして、飛んでゆく方向を知ることができるのでしょう。そして、どうして目的の場所を知ることができるのでしょう。
 古くから人々の間では、渡り鳥は、経験のある年老いた鳥につられて飛んでいる、といわれていました。まだ若い鳥や経験の少ない鳥は渡りのコースをよく知らないので、年をとった鳥を先頭にして、飛んでゆくというのです。たしかに、ガンやカモが飛ぶときは、一列にならんだり、くの字になったりして、いかにも先頭の鳥がリーダーのように見えます。
 でも、この鳥は、必ずしもリーダーの年老いた鳥ではないことがわかってきました。
 また、先頭を飛ぶ鳥は、たびたびいれかわっていることが観察されています。しかも、まったく渡りを経験したことがないはずの若鳥ばかりで飛んでいることもあるのです。
 これについて、ドイツのシュッツという学者はおもしろい実験をしてみました。
 シュッツは、まだ渡りを経験したことのない若鳥をぜんぜん見知らぬ土地につれていってはなしてみようとしたのです。
 この実験には、シュバシコウというコウノトリのなかまが使われました。シュバシコウはドイツでは繁殖していますが、イギリスではまったく繁殖していません。シュッツは、渡りの時期がくると、この鳥をわざわざイギリスまで運んではなしてみました。本当の渡りのコースからはずれた、まったく見知らぬ土地からはなされた若鳥たちは、いったいどうしたでしょう。∵
 若鳥たちはみごとに渡りの行動をおこないました。知らない土地からでも、彼らは渡りに出発したのです。ただし、本当の渡りのコースを飛んだのではありません。ちょうど、ドイツとイギリスが離れている分だけ、平行にずれて飛んだのです。いってみれば平行移動です。若鳥たちの飛んでゆく方向も、そして、飛ぶ距離も本来の渡りと同じでした。でも、本当の渡りのコースとは平行にずれたコースを飛んでしまったのです。
 この実験から、渡り鳥のおもしろい性格がわかります。渡り鳥は、渡りのコースを生まれつき知っているのではありません。Aを出発し、Bをとおり、Cに着くという渡りのコースは知りません。でも、どの方向に、どのくらい飛べばいいかは知っているのです。
 シュッツの実験は、その後、多くの研究者によってたしかめられています。ほとんどの場合、見知らぬ場所につれていかれた若鳥は、平行移動の渡りをおこないます。そして、おもしろいことに、彼らはそのいつわりのコースで、毎年、渡りをおこなうということです。本来の渡りのコースとははずれたところで、新しい渡りのコースができるというわけです。
 ただ、平行移動の渡りをするのは、まだ渡りをしたことのない若鳥の場合だけです。一度でも渡りを経験した鳥は、こんな行動はとりません。すでに渡りを知っている鳥が見知らぬ場所につれていかれたとすると、彼らは渡りをはじめようとはせず、まず、今まで住んでいた繁殖地にもどろうとするのだそうです。
 ここにも、わたしたちにはよくわからない渡りのふしぎがあります。
 渡り鳥は何かに引っぱられるようにある方向に飛びはじめ、そして、一定の距離を飛ぶと、ぴたりと、飛ぶのをやめてしまいます。こんなことは自然のふしぎというほかありません。でも彼らはいったい、どうやって飛んでいく方向を知るのでしょう。どんな方法で渡りの方向を決めるのでしょうか。∵
 これについては、以前から、さまざまなことがいわれていました。鳥たちは体の中に磁石のような器官をもっており、それによって飛ぶ方向を知るのだという意見がありました。たしかに、磁石さえあれば、方向を知ることは簡単です。
 また、鳥たちは、太陽を見て方向を知るのではないか、という意見もありました。これもありそうなことです。誰でも知っているように、太陽は東から出て西に沈みます。そして、わたしたちの住んでいる北半球では、太陽のとおり道は天の南側にあります。ひょっとしたら、鳥だって、このくらいのことは知っているかもしれません。

(倉橋和彦「渡り鳥」)