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課題集 ナツメ3 の山

○自由な題名 / 池新
○算数の勉強 / 池新


★「疲れて帰ってきてみりゃ / 池新
「疲れて帰ってきてみりゃ、姉妹でとっくみあいの喧嘩か。どうして仲良くできないんだ。女の子同士だろ」
 事情も聞かないで頭から怒鳴るお父さんを私は睨みつけた。私の反抗的な目を見て、お父さんの口もとがまたゆがむ。
 その時、花乃姉ちゃんがお父さんの肩にそっと手を置いた。
「お父さん、ごめんなさい。私が悪いの。」
 その絶妙なタイミングに、私は口を開けて花乃ちゃんを見た。
「実乃が悪いんじゃないのよ。私にお客さんが来て、それでご飯を作る時間がなかったから……」
 そう呟いて、彼女は目尻を指で拭った。涙なんか出てやしないのに。
 お父さんはしばらくモグモグと口を動かしていた。私もここで
「ううん、私も悪いの。花乃ちゃん、お父さんごめんなさい」ってしおらしく謝れば、この場がおさまることぐらい分かってた。でも、私はそんなクサいお芝居はしたくない。
 唇を噛んでそっぽを向くと、お父さんが私の背中にこう言った。
「実乃も花乃みたいに素直になってみろ。そうすりゃ、俺だってこんなに怒らないんだ」
 それを聞いて私は立ちあがった。
「……今日はお寺に泊まってくる」
「実乃お前な。自分に都合が悪いとすぐ寺へ逃げるけどな……」
 お父さんの言葉を最後まで聞かず、私は靴を履いて玄関を出た。門のところで振り返ったけれど、お父さんもお姉ちゃんも追いかけてこなかった。
(中略)
 月を見あげて私は涙を拭った。
 お姉ちゃんの嘘泣きの陰で私は本当に泣いているのに、どうし∵てお父さんは分かってくれないんだろう。お父さんの目には、反抗的な私より素直なふりした花乃ちゃんのほうがいい子に映っているに違いない。
 私は悪くない。悪いのはお姉ちゃんだ。悪いのは、花乃ちゃんに簡単にだまされるお父さんだ。
 なのに、私はお寺への階段が登れなかった。永春えいしゅんさんの懐に泣きついて、みんなが私に意地悪をすると訴えられなかったのはなぜだろう。
 私は街灯の下にしゃがんで膝を抱えた。
 でも、もしかしたら。
 お父さんの言うとおりなのかもしれないって、私は心の隅っこで思ってる。
 素直じゃなくて、何かと言うと「でも」とか「だって」とか私は言い訳してる。それで都合が悪くなると、こうやって永春えいしゅんさんのところへ逃げこもうとする。悪いのはみんな他の人で、私はちっとも悪くないなんて思ってることが、私の一番悪いところなのかもしれない。

(山本文緒ふみお「チェリーブラッサム」)