昨日1890 今日358 合計158864
課題集 ナツメ の山


 6.3週
 その日も、朝からどんよりとくもっていて、いまにも雨が降りそうだった。
 ぼくたちは、二階のぼくの部屋で、マンガを読んでたんだけど、ふと見ると、明るい日がさしているんだ。あつぼったい雲のあいだから、ぽっかり、きれいな青空がのぞいてたな。
「おい、レオナ。太陽だ、太陽だ。林へいこうぜ。このおやつ持って。」
 ぼくは押しいれをかきまわして、ピクニック用のしきものを引っぱりだした。そして、食べかけのおやつを自転車のかごにいれ、後ろにレオナをのせて、出発した。
 ところが、林について、しきものをひろげたとたん、すーっと日がかげっちゃった。
「チェッ。なんだよ、なんだよ、けち。」
 なんていってるまに、ポツポツ雨が降ってきて、たちまち、ザアザア降りさ。あわててぼくは、しきものをひっぺがし、頭からかぶった。
 でも、レオナは、ばかみたいに口をあけて、雨ん中につっ立ってるんだ。まるで、雨がジュースで、顔じゅうでのもうとしてるみたいだったな。
「ばか。なにやってんだよ。早くはいれよ。」
 のろのろとレオナは、ぼくに近づいてきた。
 けれども、しきものの中にはいるかわりに、それをはらいのけ、あっけにとられているぼくの両手をにぎった。
「なにすんだよ。ぬれちゃうじゃないか。」
 その時、いつかと同じように、レオナの手から、あたたかいものがつたわってきた。すると、ぼくはきゅうに、雨にぬれるのがちっとも気にならなくなってきた。
 いや、気にならないどころか、反対に、気持ちよくなってきたんだ。ザアザアと降る雨は、けっして冷たくなく、むしろ、あたたかだった。
「ほんとだ。柔らかいシャワーだ。レオナのいったとおりだよ。」
 ぼくはレオナのまねをして、上をむいて顔じゅうに雨をうけた。口をあけて、雨をのみこんだ。
 耳をすますと、木や草の伸びる音が聞こえてきそうな気がした。
 ぼくたちは、木のみきに耳を押しあてた。
「ほら、聞こえるよ。スクスクッて、伸びる音が。」
 「うん。聞こえる、聞こえる。」
 それから、手をつないで、わらいながら雨の中をはねまわった。
 しまいに、レオナが足をすべらせ、ぼくもろとも、ぬれた草むらにひっくりかえった。ぼくたちは、そのまま、起きあがろうともせず、大の字にひっくりかえっていた。
 雨はもう、ずっと小降りになっていて、やさしくぼくたちの上に降りそそいでいた。大きくなれ、林の木のように、大きくなれ、というように。
「レオナ。やっぱりきみは、宇宙人なのかい?」
 ぼくはいった。いや、まてよ。ただ、心の中で思っただけだったのかな。
 レオナの返事も、直接ぼくの心にかたりかけてくるようだった。
「宇宙人って、なんだい? ぼくが宇宙人なら、きみはなになんだい? ぼくたちはみんな同じ宇宙に生きている。その意味じゃ、みんな、みんな、宇宙人なんだよ。きみたちは、北海道人、九州人なんていいかたをするかい? しないだろう。それと同じさ。それくらいのちがいしかないんだよ。地球人と、ほかの星の住人とのあいだには。ひろい、ひろい、宇宙から見れば、ね。」
 なん度も、ぼくはうなずいた。
 でも、ほんとうのことをいうと、ぼくはもう、レオナが宇宙人だろうがなんだろうが、どうでもよかったんだ。大切なのは、ぼくたちが親友で、とても気があうってこと。
 それに、たとえ宇宙人でも、平和を愛する宇宙人さ、レオナは。花や木や、自然が好きなレオナは。
 そんなぼくの気持ちは、だまっていても、レオナにつたわったと思う。手から手へ、心から心へ……。

「宇宙人のいる教室」(さとうまきこ)より