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課題集 ナツメ の山


 6.2週
「まあ、のんびりいこうぜ。」
 列のまん中へんで、ぼくはとなりのレオナに声をかけた。
 その時、ピストルが鳴り、みんな、いっせいに走りだした。あっというまに、ぼくとレオナは、ぽつんとスタートふきんに取りのこされた。
 そうなんだ。ぼくは、レオナといっしょに走る決心をしたんだ。けさ、家をでた時から、そう決めてたんだ。
 まだ、校庭を半分もいかないうちに、ぼくたちはみんなに、つぎつぎに、追いこされてしまった。
「おさきに!」
とかなんとかいっちゃって。
 もちろん、みんなはもう、二周目なのさ。みじめっていやあ、みじめだったな。
「いいから、きみ、さきにいってくれよ。ぼくにかまわないで。」
「気にするなよ。のんびりいこうぜ。」
 足ぶみしながら、ぼくはいった。
 ぼくたちがようやく、正門にたどりついた時、後ろで、二度目のピストルが鳴った。
 学校の角をまがっても、とうぜん、だれの後ろ姿も見えない。そのだれもいない道を、ぼくはぴったりレオナにくっついて、ゆっくりゆっくり、走っていった。
 きっと知らない人が見たら、ふざけてると思っただろうな。だって、レオナは歩いてるとしか見えないだろうし、ぼくときたら、足ぶみしてるみたいなんだから。
 そんなぼくたちを、あとからスタートした女子の大ぐんが、ドドーッと、追いぬいていく。
「なにやってんのよ」なんていうやつもいれば、「がんばって」とはげましてくれるやつもいる。
 角ごとに立っている先生たちも、口ぐちに、はげましてくれた。
「いっとくけど、あたしたちがさいごよ。」
 二組の林ユキと大田カオルが、ちんたらちんたら走りながら、声をかけた。
 わかってらあ。ぼくたちがビリだってことくらい。
 レオナはなん度もなん度も、ぼくにさきにいけといい、ぼくもなん度もなん度も、同じことばをくりかえした。
 気にするなとか、がんばれとか。
 でも、そのうちに、ふたりともつかれて、口もきかなくなった。
 どうして、ぼくまで、つかれるのかつて? そりやあ、つかれるよ。一・二キロを、ほとんど足ぶみしながら、走ってみろよ。ほんとに、つかれるから。ふつうに走ったほうが、まだましだよ。
 やがて、さいごの角をまがって、バス通りにでて、正門が見えた時は、ほんと、ほっとしたな。
 さあ、正門をくぐった。あと、校庭一周だ。
「がんばれ、もう少しだ。」
 なん十回目かに、ぼくはいった。レオナの顔はまっ青で、目がとびだしそうになっていた。
 あと半周、というところで、レオナが転んだ。
「がんばれ、がんばれー!」
 足ぶみしながら、ぼくは叫んだ。助け起こしたいのを、ぐっとがまんした。なぜか、手をかしちゃいけないような気がしたんだ。
 レオナが立ちあがり、また走りだした。
 すると、見ている観客やみんなのあいだから、はく手がわきあがった。それから、がんばれがんばれ、という声も。
 思いがけないことに、ゴールのところで、クラスの人たちが声えんをおくってくれている。矢田もいる。足立も、根本も、堀も。
 はく手につつまれて、ぼくたちはゴールインした。みんながかけよってきて、かたをたたいたり、ゆすぶったりした。
「がんばったわね、星くん。テツヤくんも、えらかったわ。」
 そういう先生の目は、まっかだった。ありがとうと、レオナがいった。
 ぼくはてれくさくて、頭ばかりかいていた。

「宇宙人のいる教室」(さとうまきこ)より