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課題集 ナツメ の山


 きっとレオナは、ナットウやさし身がきらいなんだ。でも、のこしたら悪いと思って、むりして食べてたんだ。あるいは、はじめてだったのかもしれない、ナットウやさし身を食べるのは……。
「いつも、ごちそうになってすみません。あのう、これ、つまらないものですが……。」
 ある日、夕食のあとで、レオナはお母さんに、赤いリボンをかけた包みをさしだした。
 ぼくはなんだか知っていたから、ニヤニヤしながら、ながめていた。
 それは、レオナが自分で作った、壁かけだった。ボール紙に、三色(さんしょく)スミレのおし花をはり、セロハンをかぶせたものだ。
「まあ、きれい。ありがとう。さっそく壁にかけるわ。」
 お母さんは、ほんとうにうれしそうだったな。
 じつは、その三色スミレは、うちの庭のなんだけど、それはいわない約束だから、だまっていた。
 七時半ごろ、ぼくがレオナを送って、家へもどってみると、お母さんはまだ、茶の間にすわって、壁かけをながめていた。
 なんとなく、ぼくもこしをおろした。お父さんは、今夜も残業らしく、まだ帰っていない。
「ねえ。ずっと前、友だちがスミレのあるところを教えてくれたっていってたでしょう。あの友だちって、星くん?」
 ぼくがそうだというと、お母さんはやっぱり、というように、大きくうなずいて、
「このあいだ、お父さんともはなしてたんだけど、あんた、このごろ、かわったわね。星くんとつきあうようになってから。」
「そうかなあ。」
 お父さんは、一度だけ、レオナといっしょに食事をしたことがある。
「なかなか、いい子じゃないか。男の子にしては、ちょっとおとなしすぎるけど。」
 お父さん、たしか、そんなこといってたな。
「かわったわよ。おちついてきたっていうか、やさしくなったっていうか。だまってても、花に水をやってくれるし、草むしりもしてくれるし。いい影響だわ。もっとも、テストの点が悪いのは、あいかわらずだけど。」
「ずこっ。」
 ぼくはふざけて、ひっくりかえるまねをした。
 でも、そういわれてみると、たしかにぼくはかわったと思う。
 お母さんのいうように、おちついてきたかどうかはわからない。 きのうも、ろうかを走って、先生におこられたしね。
 じゃあ、どうかわったかというと――まず、学校で、みんなになにかいわれても、あんまり気にならなくなった。いいたいやつにはいわせておけ。そう思えるようになったんだ。だれがなんといおうと、ぼくはレオナが好きなんだ。だから、いいじゃないかってね。
 体育の時間に、レオナをはげましたりするのも、みんなの目を気にせず、平気でできるようになった。

「宇宙人のいる教室」(さとうまきこ)より