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課題集 ナツメ の山


 体育の時間に、レオナをはげましたりするのも、みんなの目を気にせず、平気でできるようになった。
 ぼくたちの学校は、毎年、五月の末に、マラソン大会があって、さいきん、体育はマラソンばっかり。
 レオナにとっては、そりゃあたいへんなんだ。
 しかも、一年、二年、三年は、それぞれ、校庭を一周、二周、三周だけど、四年からは外にでる。
 ぼくたち四年生は、まず、校庭を二周して、正門から外へでて、学校のまわりをぐるっと一周し、さいごにまた、校庭を一周。全部で、約一・二キロを走らなければならないんだ。ぼくだって、キツイぜ、これは。
 体育の時間にはじめてこのマラソンコースを走った時、ぼくは、クラスの男子十八名中、九位でゴールインした。ぼくとしては、十位以内だったから、うれしかったんだけど、いつまでたっても、レオナがもどってこない。先生にたのまれて、ぼくはしオナをむかえにいった。
 レオナは、学校の角をまがって、ちょっといったあたりを、ずるずる、のろのろ、歩いて、いや、走っていた。つまり、やっと校庭を二周して、外へでたところだったんだ。
「だいじょうぶかよ、レオナ。がんばれよな。」
「ああ。がんばるよ。がんばってるよ。」
 とはいうものの、あせはダラダラ、息はハアハア。苦しそうで、とても見てられなかったな。
 ぼくたちが、やっと学校の裏門あたりまできた時、後ろから、先生をはじめ、クラスの連中が、ドヤドヤ、おいかけてきた。
「なんだ。まだ、こんなところかよ。」
「おっそいなあ。」
「もしもし、かめよ、かめさんよ――。」
「やめなさい。どうしてそんなこと、いうんですか。――星くん、だいじようぶ? つらかったら、やめてもいいのよ。」
 心配そうに先生はしオナの顔をのぞきこんだ。でも、レオナは、はげしく首をふって、
「いいえ、だいじょうぶです。さいごまで、やります。」
 先生がちらっとうで時計を見て、まゆをひそめたのを、ぼくは見のがさなかった。まあ、むりはないけどね。だって、その日の体育は、それですっかりつぶれちゃったんだから。
 これは、あとでレオナから聞いたんだけど、先生はそのよく日、レオナを職員室へよび、マラソン大会は見学にしたらどうかと、すすめたのだそうだ。
「そりゃあ、星くんの気持ちはよくわかるわ。でも、なにかあったら、学校の責任になってしまうのよ。」
 先生、そういったんだってさ。
「で、おまえ、なんていったんだよ?」
「ぼくはやりたいっていったんだ。なん時間かかってもいいから、さいごまで走りたいって。だって……。」
と、レオナはちょっと、口ごもって、
「ずるいだろう? そんなの。病気でもないのに……。」
「ああ。そうだよな。」
 雨が降ればいいのに、と、その時、ぼくは思った。
 マラソン大会の日、雨が降ればいいのに。

「宇宙人のいる教室」(さとうまきこ)より