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課題集 メギ2 の山

★(感)コンビニエンス・ストアの/ 池新
 【1】コンビニエンス・ストアの二十四時間営業の店がだんだんふえていったのは、一九八〇年ごろからだ。それは、日本の社会が本格的に「サービス化・ソフト化・情報化」という方向にむかおうとするちょうどそのころだった。
 【2】お店の機能をサービスという観点から見直すと、だいたい夜も活動する人間がふえてきているのに、夜の七時にお店がしまっていたのではお話にならないのだ。
 ここで、「時間的な便利さ(コンビニエンス)」というサービスが商売として成り立つ。
 【3】便利さというサービスを商売とする以上、当然、チェーン店として、いろいろな地域をネットワークしていくような展開が必要となる。
 いつでもあいていて、そこにいけば日常のかんたんな雑貨から食料までなんとかなる、そういうお店だ。【4】ふつうのコンビニエンス・ストアには、だいたい三千品目以上の商品がおかれているといわれる。
 その後、コンビニエンス・ストアは、ファースト・フードをいれ(「おでん」すらファースト・フード化させ)、チケット類の予約販売、公共料金の窓口業務、クリーニングの取り扱いといったぐあいに、新しいアイテムをつぎつぎと加えていっている。【5】コンビニエンス・ストアというお店の基本的なあり方も、最初のころとくらべるとやや変わってきている。固定的なものではなく、客のニーズがあればすぐさまその商品をそろえるという柔軟さこそ、コンビニエンス・ストアの真髄だろう。
 【6】ところで、「時間」をビジネスにしているのはコンビニエンス・ストアだけではない。きみたちのまわりでは、たとえば「牛どん」ショップとか、ファースト・フードのチェーン店などがそうだ。
 日本では、一九七〇年ごろからファースト・フードが店舗をふやしはじめる。
 【7】ハンバーガーの店ではそれまでの日本では考えられなかった「早朝」という時間帯を営業のなかに組みいれてビジネス化を図った。その後、「深夜」や「二十四時間」を組みこむ店もふえた。
 一方、和食系のファースト・フード店も、「早朝・深夜」をビジネスの対象にした。【8】食事できる場所がしまってしまった深夜や、まだどこもあいていない早朝に営業することで、他のお店との「差別化」を図って、そこにある時間の利便性を商売にむすびつけているわけだ。和食系のチェーン店では、アメリカにまで進出し、成功∵をおさめたものもある。
 【9】時間のビジネス化という意味では、コンビニエンス・ストアとファースト・フード店はあるていど共通している。
 しかし、筆者のみるところでは、やはりコンビニエンス・ストアには、独特のものがあると思う。【0】立地でいうと、繁華街だけでなく住宅街のまんなかにも出店している。コンビニエンス・ストアの午後九時や十時にいってみるといい。塾帰りなどの小学生や中学生が夜食がわりにおでんをワイワイいいながら食べているのに出会えるはず。
 コンビニエンス・ストアが開拓した「時間」はどうみても夜だ。あの「時間」はまだきちんと管理されておらず、どこにも位置づけられてないのだ。奇妙な明るさのなかにある解放感と孤独感がそれを物語っている。
 コンビニエンス・ストアが消費社会の申し子と考えるのはそのためだ。消費社会というのは、これまでの時間についての考え方、みんなの共通の枠組みが統一性を失った社会なのではないだろうか。コンビニエンス・ストアの「時間」の位置づけられなさはそれを象徴している。
 それまでの常識では考えられなかった、営業時間の「すきま」をビジネスにしたのがコンビニエンス・ストアやファースト・フードだった。
 「すきま」というのは、時間についてだけいうのではない。それまで他の企業が関心をもっていなかった分野だとか、余裕がなくてできなかった分野のことを一般に「すきま」(またはニッチ)という。
 いま、企業は、いろいろなすきまの分野をねらって、ビジネスにしようとしている。市場が大きくふくらんで成長が頂点に近づくにしたがって、すきまをつく戦略が重要な役割を占めてくる。
 そして、コンビニエンス・ストアをはじめ、宅配便など、それまでなかった商売が、いつのまにか、いまでは欠かすことができなくなっている。これも消費社会の一つの断面といってよさそうだ。

(児玉裕「あなたは買わされている」による)