昨日394 今日202 合計152956
課題集 マキ3 の山

○自由な題名 / 池新
○学校、危機意識 / 池新

★児童図書館員という職業につき / 池新
 児童図書館員という職業につき、本を読む子どもたちとつきあうようになって、かれこれ十年たつ。本を選ぶこと、本を楽しむこと、本から実質的な益を得ることにかけては、立派な読書家といえる子どもが多いのだが、この小さい読者たちは、ときに思わぬ言動を見せて、わたしたちを驚かす。
 たとえば、「この本はとてもいい本だけど、ぼくは○○ページだけは、絶対に読まないからね」と宣言する子。(問題のページでは、主人公の愛犬が死ぬのである。)あるいは、二巻に書かれた本の下を借りてゆき、「この本、下と書いてあるのに、とてもむつかしかった」と不満げに返しにくる子。わたしの著した本をもってとんできて、「ねえ、ねえ、これ先生が書いたの?」ときく子がある。そうだと答えると、かの女は、目をまんまるくして驚嘆する。「きれいな字ねえ!」
 しかし、小さな読者のことばは、いつもわたしたちをほほえませるとは限らない。ときとして、思いがけぬ考えの深みに、わたしたちを誘うことがある。『ナルニア国ものがたり』を読んだある子がいった。「東京にアスランの喜ぶもの、何かあるかなあ……」
 『ナルニア国ものがたり』は、『悪魔の手紙』などの神学的著作で知られるイギリスの文学者C・S・ルイスが、子どものために書いた全七巻からなる壮大なファンタジーで、アスランというのは、その中に登場するキリストを象徴するライオンである。
 「……東京タワーじゃ喜ばないねえ。でも、アスランは、ほんとうにいいものは残るっていったんでしょ……」

(松岡亨子『小さい読者』)

○■ / 池新