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課題集 ハギ3 の山

○自由な題名 / 池新
○がんばったこと、何かを初めて食べたこと / 池新
○私のあだな、秘密基地 / 池新

★どんな生物のからだであっても / 池新
 どんな生物のからだであっても、細胞という単位からできている。しかし、細胞は小さいものだから、ほとんど目には見えない。血液のなかにある赤血球や白血球も、細胞の一種である。その大きさは、約十ミクロン。ミクロンという単位は、一ミリの千分の一の長さである。それなら、細胞を約百個並べると、一ミリになる。ずいぶん、小さいものだということがわかるであろう。
 細胞には、たくさんの種類がある。人間のからだでも、数百種類が分けられている。それぞれ大きさや形や働きが、少しずつ、あるいは大いに、違っているのである。
 これだけ小さいもので、人間のからだができているとすると、人間のからだは、何個の細胞からできているのか。もちろん、全部数えた人はいない。ほぼこのくらいという見当でいえば、十兆の単位になるといわれる。
 人間が見ることのできる、いちばん小さいものは、大きさにしてどのくらいか。
 それはほぼ十分の一ミリと考えてよい。机の上をはっている、とても小さな虫、それでもたいていは一ミリを越える。だから、目に見えないほど小さな昆虫というのは、じつはいない。昆虫なら、いくら小さくても、十分の一ミリよりは、普通大きいのである。なぜなら、昆虫もまた、細胞からできているが、昆虫だからといって、細胞の大きさは、とくに小さくならないからである。それなら、ある程度の数の細胞を集めてできた生物は、細胞の大きさよりは、かなり大きくなるはずである。一辺が十ミクロンの長さの立方体になっている細胞があるとして、その細胞を千個集めると、一辺が百ミクロンの立方体ができる。これなら、肉眼で、やっと点として見える。
 ところが、たとえ一匹の、点ほどの大きさの昆虫でも、昆虫である以上は、頭があり、足があり、えさをとり、動きまわり、子どもを生む。それなら皮膚も必要だし、筋肉もいるし、それを動かす神経もいる。そうしたものはすべて、皮膚細胞や筋肉細胞や神経細胞という、それぞれ違った種類の細胞の集まりだから、細胞の数∵がたくさん必要である。そう考えれば、いくら小さな虫でも、細胞の大きさよりは、ずっと大きくなければならない。それがわかるであろう。
 細胞一個で生きている生物もある。アメーバやゾウリムシがそれだが、これは単細胞生物といって、人間や昆虫のような多細胞生物とは区別される。単細胞生物は、もちろん細胞の大きさ、つまり十ミクロン、あるいはたかだか、その十倍の大きさ程度までである。これではなかなか、目には見えないことになる。

(養老孟司「解剖学教室へようこそ」)