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課題集 ハギ の山

○自由な題名 / 池新
○私の朝、たまごを使った料理 / 池新
★家族の長所、楽しい先生 / 池新

○昆虫の幼虫が育つ日数(感) / 池新
【長文が二つある場合、音読の練習はどちらか一つで可。】
【1】「これってどういうこと? 教えてよ。」
 私の家では、家族どうしの会話がとても多い。テレビや新聞を見ていて、気になることがあると、みんな遠慮なく口に出す。名前の分からない芸能人がいれば父は私に聞いてくるし、可愛い動物が映れば母は大喜びでみんなを呼ぶ。【2】中学生の兄はすぐに、聞いてもいないうんちくを言いたがる。
 そういう私も、自分が好きな本や映画の話になると、「これはこういうあらすじで、こんな登場人物がいてね……」と解説を始めてしまうのだから、始末に終えない。
 【3】ああでもないこうでもないと話しているうちに、気がついたら番組そのものが終わっていた、ということも少なくない。自分の考えをしゃべって、家族の意見を聞いて、納得することが楽しいのだ。
 ある日、私が帰宅すると、父と兄が何事か言い合う声が聞こえてきた。【4】ふだんのんびりして頼りなさそうな父と、ダジャレばかり言っている兄。そんな二人がこんなに熱くなるのは珍しいことだ。
 まさか喧嘩かと私は身を固くしたが、よくよく聞いてみると、どうやら二人とも同じことについて怒っていて、その不満を述べ合っているらしい。【5】私はひとまず安心して、何があったのかと聞いてみた。
 すると兄は「はやぶさ」のことだと教えてくれた。小惑星探査機「はやぶさ」が、長い宇宙の旅を終えて地球に帰ってくる。それも、さまざまなトラブルを乗り越えて、奇跡的に。【6】私はそんなものが存在していたことすら知らなかった。
 父と兄は、その世紀の瞬間がテレビ中継されないことに憤慨していたようだ。とはいえ、今はちょうどサッカーのワールドカップが始まったところだ。四年に一度のイベントを優先する方が当たり前ではないかと、私には思えた。∵
 【7】私がそう言うと、兄はいっそう大きな声で、私に「はやぶさ」の魅力を語った。その任務が世界初の試みであること、事故でボロボロになったにも関わらず必死に帰ってこようとしていること、中でも一番驚いたのは、その放浪の旅が七年にも及んでいるということだった。四年に一度どころではない。
 【8】兄たちはこれから、わざわざジャクサのホームページに接続して、動画で帰還を見届けるのだという。せっかくだからと私も一緒に見ることにした。その映像はお世辞にも鮮明とは言えなかったが、燃え尽きていく「はやぶさ」の姿は、まるで大きな流れ星のようだった。【9】そして私は翌日、その美しさについて、見ていなかった母に熱く語って聞かせることになったのである。
 人間は誰かと対話をすることで、新しいことを知り、自分の世界を広げることができる。そうした対話を欠かさないことは、私の家族の長所と言っていいと思う。【0】じっくり話してみることで、身近な人の更なる長所を見つけることもできる。私は、これからも家族の対話を大切にしていきたい。

(言葉の森長文作成委員会 ι)∵
 【1】昆虫の幼虫が育つ日数(幼虫期間)は、哺乳類などにくらべて短いものが多い。夏のイエバエはたった一週間で幼虫が発育をとげて蛹になり、四日たつと蛹から成虫に羽化するというスピードぶりである。【2】一方、カワゲラ類の三年.ムカシトンボの五年、アブラゼミやミンミンゼミの六年などのように、犬や猫より長くかかって親になる昆虫もいる。
 しかし、上には上があるもので、五〇年もかかって育つ昆虫がいる。アメリカ西部にすむアメリカアカヘリタマムシがその記録保持者である。【3】日本のタマムシはその美しさゆえに、法隆寺の国宝・玉虫厨子たまむしのずしはねが使われているが、アメリカアカヘリタマムシも美麗さにかけてはひけをとらない甲虫(こうちゅうで、金緑色の翅鞘ししょうが赤くふちどられている。
 【4】このタマムシは樹勢のおとろえたアメリカマツを選んで産卵し、幼虫は木の内部を食べて二、四年後に蛹になり、羽化した成虫は、ひと冬木の中ですごしてから脱出する。ここまでなら、成育日数が多少長くかかる昆虫にはよくある話で、それほど珍しいことではない。
 【5】ところが、幼虫が小さいうちに林のマツが伐採されて建材になると、発育の間のび現象がおこる。建築後数十年たった家屋の柱、床板、窓枠、あるいは長年使ってきた食器戸棚などから、ひょっこり成虫が現れてくる。【6】それもアメリカだけでなく、この虫が分布していないはずのヨーロッパやグアム島などで国内羽化が記録されている。それは、幼虫のひそんでいたマツの木材がアメリカから輸入されて使われたためである。
 【7】この虫は伐採したマツ材にはけっして産卵しないから、伐採後何年目に成虫が出現したかでおおよその成長記録が推定できる。最高記録の五一年は幼虫として発見されたものなので、半世紀以上かかって育ったことになる。
 【8】幼虫期間がふつうの一〇倍以上もかかる理由は、木材が乾燥して水分が不足したための発育遅延と説明されている。乾燥により∵命がのびたという見方もできる。乾燥という厳しい逆境で、体がひからびて死ぬこともなく、しぶとく育つこの虫の生命力には驚嘆させられる。
 【9】極限の乾燥にさらされながら何年も生きぬく、もう一つのすごい虫にアフリカのユスリカがある。ユスリカの幼虫(アカボウフラ)は水生で、水がないと発育できないだけでなく、水がなくなれば死がおとずれる。【0】しかし、ナイジェリアの砂漠にすむポリペディウムというユスリカの幼虫は例外である。日照りがつづいて水が干あがると、土の中でミイラのように縮んだ姿になり、雨が降るのを何ヵ月も待つ。じっとがまんの日がつづいたあと、旱天の慈雨に恵まれるとよみがえって本来の姿にもどり、発育を再開する。実験室で数年間乾燥させて貯蔵した幼虫を水にいれたところ、すぐよみがえって活動をはじめたという報告もある。乾燥で命がのびたような気さえする。
 この虫は乾燥に強いだけでなく、短時間なら、摂氏一〇二度からマイナス二七〇度の高低温にも耐えるという。
 
(安富和男の文章から)