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課題集 黄ツゲ の山

○自由な題名 / 池新
○家 / 池新


★オープンソース・コミュニティ(感) / 池新
 オープンソース・コミュニティの成功は、この質問をもっともっと尖鋭化する。インターネットで自薦のボランティアをつのったほうが、ほかのことをしていたい人たちをビルいっぱい集めて管理するよりも安くて効率がいいことが多いという、動かしがたい証拠をつきつけているからだ。
 というところで、話は都合よく動機づけのほうにやってきた。友人の論点と同じことを別の言い方で言っているのをよく聞く。伝統的な開発マネジメントは、そのままではいい仕事をしてくれない、やる気のないプログラマーたちを補うためのものなんだ、と。
 この答はまた、オープンソースは「セクシー」で技術的に魅力ある仕事でしかあてにならない、という議論とセットになっていることが多い。それ以外のことは、放っておかれるままだ(あるいはいい加減にしか処理されない)。それをやるには、札束でひっぱたかれて、区画に閉じこめられた日雇いプログラマーが、頭上でマネージャのふりまわす鞭の響きをききつつ必死で書くしかない、というわけだ。ぼくは、こういう主張がまゆつばだと思う理由について、「ノウアスフィアの開墾」で述べた。でもこの文の趣旨からして、これを本当として受け入れたらどういうことになるかを指摘するほうが、もっとおもしろいだろう。
 もし、従来型のクローズドソースでマネジメント過大のソフト開発スタイルが、退屈からくる問題でつくったマジノ線によってしか弁護できないのならば、その議論が成立するのは、それぞれのアプリケーション領域で、だれもその問題を本気で面白いとは思わないし、さらに他にだれもその問題の抜け道を見つけない場合に限られる。「退屈」なソフトにオープンソースの競合がでてきた瞬間に、顧客たちは、その問題自体が面白いから解決してやろうという人物が、それに取り組んでいるんだな、というのがわかるわけだ――そしておもしろさというのは、ソフトに限らずあらゆるクリエイティブな仕事に言えることだけれど、ただのお金なんかよりもずっとずっと優れたニンジンなんだ。
 伝統的なマネジメント構造を、みんなの尻を叩くためだけに持っておくというのは、戦術的には優れていても、機略的にはダメだ。短期的には成功しても、長期的にはまちがいなく負ける。
 (中略)
 すると、伝統的なソフト開発マネージャへのわれわれの答は簡単だ――もしオープンソース・コミュニティが伝統的なマネジメントの価値を過小評価しているというんなら、なぜあなたたちのそんなに多くが、自分自身のプロセスに対して恐怖や恐れや侮蔑を表明しているのでしょうか?
 またもや、オープンソース・コミュニティの存在がこの質問をかなり尖鋭にしてしまう。――ぼくたちは楽しんでやっているんだもの。ぼくたちの創造的な遊びは、技術面でも、市場シェア面でも、精神的なシェアでも、すさまじい勢いで成功を重ねてきている。ぼくたちはもっといいソフトがつくれることを示しただけじゃない。よろこびが資産であることを証明してもいるんだ。
 この論文の最初の論文から二年半たって、ぼくが最後に提供できるいちばんラジカルなアイデアというのは、オープンソースが圧勝した世界のビジョンではない。だってそんなものは、いまではスーツ姿のしらふ人間たちにだって、ずいぶん納得のいくものになっているようじゃないか。
 むしろぼくは、ソフトウェア(そしてあらゆる創造的またはプロフェッショナルな仕事)についての、もっと広い教訓をここで提示してみたい。人間は仕事をするとき、それが最適な挑戦ゾーンになっているといちばん嬉しい。簡単すぎて退屈でもいけないし。達成不可能なほどむずかしくてもダメだ。シアワセなプログラマーは、使いこなされていないこともなく、どうしようもない目標や、ストレスだらけのプロセスの摩擦でげんなりもしていない。楽しみが能率をあげる。
 自分の仕事のプロセスにびくびくゲロゲロ状態で関わり合う(それがつきはなした皮肉なやりかただったとしても)というのは、それ自体が、そのプロセスの失敗を告げるものととらえるべきだ。楽しさ、ユーモア、遊び心は、まさに財産だ。ぼくがさっき「シアワセな集団(happy hordes)」という表現を使ったのは、別に頭韻のためだけじゃないし、Linuxのマスコットがぬくぬくした幼形成熱(ネオテニー)っぽいペンギンなのも、ただの冗談じゃあない。
 オープンソースの成功のいちばんだいじな影響のひとつというのは、いちばん頭のいい仕事の仕方は遊ぶことだということを教えてくれることかもしれない。
 
 「オープンソースワールド」(川崎和哉著・翔泳社)の「伽藍とバザール」(エリック・S・レイモンド著)より
 原文は「The Cathedral and the Bazaar」
 http://www.tuxedo.org/~esr/writings/cathedral-bazaar/