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課題集 黄テイカカズラ の山

○自由な題名 / 池新



★私がインドへ行って三日目(感) / 池新
 私がインドへ行って三日目、山に行く道すがら先生からこういう質問が出た。
 「野原を歩いているときに、後ろをヒョイッと見たら虎が追いかけてきた。そこで、たまらぬと逃げ出して、どこか安全なところはないかいなと、はるか向こうを見ると、大きな松の木が天にそびえてる。これだっていうんで松の木に登って、チョイと下を見ると、その松の木の枝の出ている下は底知れない谷だ。
 ここなら虎も上がってこないわ、ここにしばらくいようと思っているときに、ヒョイと気がついて頭の上を見たら、頭の上から大きな蛇がお前を飲もうとして紅蓮(ぐれん)の舌をペロッペロッと出して近寄ってきた。上に大きな蛇、下に虎。
 そこで、これは困ったというんで、どこかに逃げるところはないかと、ヒョイッと足元を見ると、谷底へ蔦葛(つたかずら)が下がっていた。これだこれだ、この蔦葛にひとつぶら下がっていれば、蛇も虎もどうすることもできないっていうんで、蔦葛にぶら下がった。
 いいか。そうしたらば、やれ安心と思ったのもつかの間、手元に何か怪しき響きを感じてきたので、ヒョイと上を向いたら、何と貴様、そのつかまっている蔦葛の根を、リスめが来て、ボリボリ食いおった、どうする?」。こういう質問なの。
 そのままあなた方にも言う。どうする?
 そのとき私はね、あなた方と違って、何べんか、もう駄目だという生死のなかをくぐり抜けた後のいわゆる生死経験の者でありますから、あなた方ほどあわてませんでした。私、にっこり笑ったよ、その時に。どうせ、むこうの満足するほどの返事はできないかもしれないけども、私としてはこう考えた。何もあわてることはないじゃないか。切れるまでは生きているんだから、切れて落っこちてから後のことは、落っこちてから後に考えればいいと思ってね。
 「落っこちるまでは、生きておりますから、そのまま安住してます」と言ったら、
 「偉いっ、それなら先ざき見込みがあるぞ。それが人間の世のほんとうのありさまじゃ」
 これが、人間の世のありさまなんです。気づかないために安心しているんではなく、気づいたときでも安心ができるようでないと、本物じゃないわけだね。ところが、あなた方、気づかざる場合には知らぬことで、我が心を煩わさないから何にも考えないけれども、わかったら大変だ、ねえ。
 わかったら大変じゃいけないんですよ。わかっても、我れ関せずの心になり得れば、人間の世界に何の恐れも感じない、実に安心した状態が続いてくる。
 「成功の実現」(中村天風著)