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課題集 黄タラ の山

○自由な題名 / 池新
○服 / 池新


★このように、シンクタンクが(感) / 池新
 このように、シンクタンクが示した行動計画に沿って金融政策を推し進め、アメリカは予定どおり財政赤字を解消した。
 しかし、ただひたすらニューエコノミーを成長させようというクリントンの戦略は、二〇〇〇年四月の時点で完全に息切れした。
 最盛期には一万三〇〇〇ドル近くまで上がったニューヨーク市場あるいは五〇〇〇ポイントまで上がった米ナスダック市場も、現在はそれぞれ一万ドル、二五〇〇ポイントを割り込もうかという状態である。GDP(国内総生産)をはじめとする経済指標をみても、軒並み伸び悩んでいる。日本と逆転した失業率さえ、また上昇し始めている。
 いま、このようにアメリカの景気が衰退に向かっている原因は、ニューエコノミーに偏向しすぎたことにある。
 IT産業が青天井の発展を続けている裏で、一時代前の強いアメリカの象徴であった製造業、すなわちオールドエコノミーは、ニューエコノミーの成長に反比例するように凋落の一途を辿った。
 とくにひどかったのが、軍需産業である。最大手であるロッキード社は、九〇〇〇人にも上るレイオフを行った。そのほか、鉄鋼業や重化学工業なども、決していい状態とはいえない。
 こんな片肺飛行の状態のままで、好景気が続くはずがない。ここはぜひとも、オールドエコノミ、を復活させなければならない。
 そこで登場したのが、共和党ブッシュ政権である。
 ブッシュ政権は、経済政策において、より保護主義的な色合いを強めていくだろう。そして、私のイメージを言葉にすれば「暴力的な政治」になると言ったほうがいいかもしれない。
 元来、政治とは、主権者である国民の利益を保障し、国民の利益を増大させるところにその本質がある。しかし、自国内だけで利益を増大させ続けていたのでは、どうしても限界がある。そこで、他国から利益を奪い取ってくることになる。
 世界市場という限られたパイをめぐり、いかに多くの利益を自国に誘導させられるか、これが為政者に課せられた重要な役割なのである。
 たとえどんな手段を用いてでも、他国から物を奪ってこなければならない。他国から物を奪うには、武力をもってする方法、頭、つまり法律や外交的手段をもってする方法など、さまざまある。
 法律で他国から物を奪うにせよ、武力で他国の物を奪うにせよ、人の物を奪うことに変わりはない。奪わなければ、自国民を幸せにすることはできないのである。
 ブッシュ政権は、この他国からの収奪が一番大きな役割であるといってもいいだろう。しかし、いくら保護主義の共和党政権を誕生させたとはいえ、アメリカ経済がいまの状態では、オールドエコノミーの復活は非常に難しい。
 頭打ちの株式市場から、資金はどんどん流出していく。これによって、株価は当然下がる。そうなると景気の減速感はますます高まり、消費が落ち、内需が伸びなくなる……。
 こういった景気減速のしわ寄せは、すべて鉄鋼業や重化学工業に向かうことになる。こうなると、オールドエコノミーはますます追い詰められることになる。
 そこで今度は、これまでと逆の政策をとらなければならない。すなわち、低金利政策、ドル安政策である。
 したがってこれまでのような金融戦略一辺倒では対応できない。思うように資金が入ってこなくなるのだから、それは当然だろう。となると、いま手元にある資金を守りながら、製造業を伸ばさなければならない。しかし、もはや国内消費のこれ以上の伸びは期待できない。では、国内消費が伸びないまま、どうやって製造業を伸ばしたらいいのか――。
 その答えが輸出だった。アメリカの製品を、外国に買わせればいい。
 そのためにはどこかの国の内需を急拡大させればいい。しかし、発展途上国の成長を待つなどと、悠長なことはいっていられない。ならば、とるべき方策はただ一つ。経済力があり、大金持ちの国の株を吊り上げればいいのである。
 ここで再び日本がターゲットにされることになった。これまでは日本のお金を吸い上げて好景気を生み出してきた。今度は、日本の株価を上げて景気をよくして、アメリカの製品を大量に買わせればいい。
 日本の景気が急回復すれば、当然、内需が拡大し消費は伸びる。これまで長いあいだ抑えに抑えられてきた消費が爆発的に伸びることになるのは明らかである。
 この「爆発的に伸びる」という点が、非常に重要なポイントである。爆発させないと意味がない。
 日本企業は、これまで一〇年近くのあいだ、一生懸命社員の首を切り、工場を閉鎖しながら生産力を縮小してきた。そこで一気に消費が伸びることになれば、消費の伸びに生産が追いつかなくなってしまう。国内生産が追いつかなければ、海外、すなわちアメリカから購入してしのぐ以外に方法はない……。そうすれば、アメリカ製品が日本に流れ、アメリカの製造業が復活する。
 アメリカは、こんなシナリオをすでに用意しているのである。

 「2002年日本経済バブル再来」(増田俊男)