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課題集 黄シオン の山

○自由な題名 / 池新
○個性 / 池新


★ベンチャー・キャピタルの(感) / 池新
 その後ベンチャー・キャピタルの事業に取り組まれ、今度は主に若い経営者と接してこられたわけですね。
 今原=はい。彼らはサラリーマンとはまったく違って、自分で自分の道を決め、自分でやっていく人たちなんですね。失敗したらおしまい、というリスクを常に背負いながら、株式を公開させ株価を何千円にもしていく。中途半端なことではそこまでいけませんからね。皆一癖も二癖もある。やはりすごい人たちですよ、うん。
 ――起業して伸びる人とダメになる人の違いを、どう見ておられますか?
 今原=はっきり言えるのは、仕事ができる人というのは、「仕事ができるとはこういうことだ」という自分自身の哲学を持っていますね。例えば、「一日人よりも余計に働くことが人に勝つ方法だ」と信じている人がいる。それも一つの哲学です。
 ところが、そういう哲学を持っていない人、理解できない人というのもいるんですね。そんな簡単なことで勝てるかと。自分は頭がいいと思い込んでいて、俺はこれで一度も負けたことがないんだ、と自信を持っている。
 それも一つの考えなんでしょうが、実際に会社を起こせば、とてもそんなものじゃ通用しないことがすぐわかります。競争に勝つ、仕事に勝つということは、そんなに甘いものじゃない。皆命懸けでやっているわけですから。
 わかりやすい例を挙げますと、まず学位を持っている人、博士号を持っているような人が企業を始めると、必ず失敗しますね。
 ――ほう、必ずですか。
 今原=そう、百パーセント。もう例外がないのです。とくに名刺に自分の取った学位を刷っているような人は、一番始末が悪い。
 そういう人よりもむしろ、「学位が何だ、英語がうまいからって何ができるんだ」などと開き直っている人間のほうが、結局社会に出て会社を起こしたり、どこかの役員になったりしてリーダーシップを発揮していますね。私と同じ学校を出たJR東日本の松田昌士社長やNTTの児島仁相談役などがそういうタイプです。頭でっかちで神経質なタイプでは、ダメなんです。
 ――ほかに失敗しがちなタイプはありますか?
 今原=いろいろありますが、立派な父親を持つ人もそうです。父親が偉大なほど息子はダメになるのですね。息子の出来が悪い、なんて好んで他人に言う人はいないからわからないのですが、僕らは実際にそんな人をたくさん知っています。お父さんは皆、極めて立派な経営者である場合が多いですよ。僕も忙しくて、問題提起をするだけで終わってしまっているんですが、後継者とか自分の子供の教育という問題もひっくるめて、息子を親父に負けない経営者にする方法を、日本人はもっと考えていく必要がありますね。そういうことを書いたり、言ったりする人が少ないから、結局「長男もかわいい、次男もかわいい、三男坊ならもっとかわいい」で、子供をダメにして終わってしまうんですね。
 ――逆に成功する経営者の条件についてはいかがですか?
 今原=私の経験から言えば、約束を守るということです。
 ――ほう、約束ですか。
 今原=ええ。これはね、ある意味では経営者の原点ですよ。そんなこと当たり前だ、と思われるかもしれませんが、案外守れない人が多いんですね。
 一口に約束といっても、非常に幅が広いわけでね。お金の貸し借りの約束もあれば、ゴルフのような遊びの約束もある。しかしどんな約束であれ、それを守らないとどうなるか。「信頼」というかけがえのない財産を失ってしまうんです。
 ――たとえつまらない約束でも。
 今原=そうそう。つまらない約束ほど難しいのですよ。つまらないからといっておろそかにするのなら、初めから約束なんかしなければいい。
 破っても平気な人は、簡単に約束をするんですよ。しかし、百パーセント守らなければいかん、と思っている人は簡単に約束はしません。そして、いったん約束をすればキチッと守る。それは見事なものです。
 ゴルフをやるとしますね。そういう人に「ゴルフ場も時間もお任せします」と言うとね、翌日の夕方までには必ず返事が来ます。そんなささいなこともおろそかにしないんですね。
 
 「致知」二〇〇〇年三月号より