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課題集 黄シオン の山

○自由な題名 / 池新
○本 / 池新


★明治維新の意義を(感) / 池新
 岡崎=渡部さんは明治維新の意義をどのように考えられますか。
 渡部=歴史にif(もし)は無意味だといいますがifを考えない歴史はおもしろくない。そこで、地球上に日本という国、日本人という民族がいなかったら、世界の歴史はどうなっていたかと考えてみるんです。すると、明治維新の意義が紛れもなく明確になります。
 岡崎=日本、そして日本人がいなかったら、世界はどうなりましたか?
 渡部=コロンブスのアメリカ大陸到達以来の四百年は、白人支配の歴史でした。それに終止符を打ったのが明治維新です。だから、日本がなかったらどうなったかは明白です。世界中がアパルトヘイトになっていたでしょう。そして、それを突き破る力は、日本以外にはどこにもなかった。いまでも白人優位のアパルトヘイトは続いていたでしょうね。
 十九世紀末に進化論が登場しました。進化論そのものは種の起源を説いた純粋な自然科学の理論ですが、これがスペンサーの社会論などと結びついて、適者生存を人種にまで拡大させました。また、ナポレオン戦争以後のヨーロッパの軍艦や大砲、近代産業などの文明の発展は他の文化圏と隔絶していたから、社会的進化論の正当性を立証するものにもなっていた。それを突き破ったのが日本人でした。明治維新の意義はこの一点に尽きると思います。
 明治維新はこの点を的確に把握していましたね。維新後、日本はすぐに留学生を欧米に送り国家として欧米の自然科学をマスターすべく取り組んでいる。これはすごいことですよ。勉強すれば欧米には追いつけるという確信があったんですな。事実、すぐに欧米の文明をマスターして、第一回のノーベル医学賞には北里柴三郎がノミネートされています。もっとも最初の名誉を黄色人種に持っていかれるのは癪だということだったのでしょう。医学の総本山を自認していたドイツが反対して、第一回ノーベル医学賞は、北里柴三郎の後追いのような研究をやっていたフォン・ベーリングにいきましたが。
 岡崎=日本がなかったならば、世界の歴史はどうなっていたか。世界中がアパルトヘイトになっていた。これは世界史的に見て、正しい認識ですね。日露戦争の日本の勝利は外交史的に見ても世界的出来事だと言えます。これに匹敵するものは何だろう。イスラムがコンスタンティノープルを落としたようなものかな。しかし、あれはヨーロッパ社会やイスラム社会にはインパクトを持ったが、アジアへの影響はさほどでもないですからね。第二次大戦中に大東亜会議が開かれましたが、あそこに集った王兆銘をはじめとするアジアの面々は、日露戦争に感激し、明治維新後の日本の近代化を賛嘆した精神の持ち主です。それを信念とするジェネレーションを生み出したというように、日露戦争は後世への影響も大きい。植民地解放の種になっている。
 渡部=外交史で特記すべきことは、その前に日英同盟があるでしょう。スプレンディド・アイソレーション、すなわち「名誉ある孤立」を標榜していた誇り高きイギリスが、アジアの東の果てに出てきた日本と対等の軍事同盟を結ぶ。この衝撃は計り知れないものがある。
 岡崎=福沢諭吉も、夢のようだと言っていますね。
 渡部=日英同盟はシナのボクサー・リベリオン、拳匪の乱に際しての日本軍の道義にかなった勇敢な行動に当時の北京公使で後の駐日イギリス公使のマクドナルドが感銘したことが大きな動機になっていますね。
 岡崎=それもあるが、当時のイギリスは世界最強の海軍国ではあったが、フランスやドイツで軍艦建造が進み、相対的に力が弱まっていました。ヨーロッパの動静を考えると、アジアで南下してくるロシア勢力に対抗する余力はない。そこで日本と力を合わせてロシアに対抗する。イギリスにすれば、日英同盟は現実的選択だったのですね。
 渡部=チェスタトンの自叙伝を読むと、当時のイギリス人は決して日本を好きではなかったのです。アジアの果ての黄色人種の国と同盟を結ぶのはおかしいと感じていた。だが、現実には同盟関係を結ぶほかはない。そこで、日英同盟には当時の政治家は薄笑いを浮かべて受け止めるという感じだったという情景を自分の目で見て書いています。日本を見下しながら、現実には同盟を結ばざるを得ない。そこまで日本が力をつけ、また信頼感を与えていた。その根源となったのは明治維新です。このことはいくら強調しても強調しすぎることはない。
 
 「致知」二〇〇〇年三月号より
 拳匪(けんぴ)