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課題集 黄サツキ の山

○自由な題名 / 池新
○個性、勉強の意味 / 池新


★ソフトバンクが株式公開(感) / 池新
 孫 ソフトバンクが株式公開した直後、アメリカに出張中でしたが、「ウォールストリートジャーナル」でジフ・デービスが売りに出されていることを知り、すぐ創業者に会いに行きました。
 ジフ・デービスはパソコン関係の出版社で、世界ナンバーワンの会社です。広告収入では世界で一、二、三位と五位の雑誌を持っていて、実際、ここの「PC WEEK」は「ビジネスウィーク」や「プレイボーイ」などよりはるかに広告収入が多いし、一誌当たりで見るとおそらく世界で一番儲かっている雑誌です。
 実は、ビル・ゲイツと初めて会ったのは、ソフトバンクが出している雑誌のインタビュアー兼通訳としてでした。そのとき彼が「PC WEEKは毎週読んだほうがいい」と言っていたことはずっと覚えていましたし、「PC WEEK」の日本語版版権もとっていました。
 僕はさっそく、創業者で会長だったウイリアム・ジフと話しました。売りに出したのは「自分は病気がちなのでリタイアしたいのだが、二人の息子は別の事業をやりたがっている。やる気がない者に継がせても社員を不幸にするし息子のためにもならない」という理由からでした。だから入札で、一番高い値段を付けたところが落札する「開かれたM&A」をするというのです。
 ジフ・デービスは、「デジタル情報革命での宝島の地図」ですから、僕は、どうしても欲しかったのですが、大きな買収は初めてです。そこで、モルガン・スタンレーという世界最大の投資銀行を中心に、弁護士や会計士などを加えプロジェクトチームをつくりました。
 彼らに、「ソフトバンクは株式公開したばかりで、あまり資金はない。それにジフ・デービスは、われわれよりはるかに規模が大きい。資金調達の方法やアイデアをいろいろ提供してくれ」と頼みました。
 彼らはさすがにプロフェッショナルでした。「資金がなくても買収できる方法がある」と言う。それがLBO(レバレッジド・バイアウト)という方法でした。つまりソフトバンクは株式を公開してある程度の利益を上げているし、もちろんジフ・デービスも大きな利益を上げている。だから両社の収益を合わせれば、一プラス一が二ではなくて三以上の信用力がある。銀行は、この信用力を担保に金を貸してくれるというのです。
 さすがに半信半疑でいたのですが、彼らはバンク・オブ・ニューヨークとシティ・バンク、チェース・マンハッタンの三行に声をかけてくれました。夕食の招待を受けて、その席でソフトバンクの説明をしました。モルガン・スタンレーの担当者が、各銀行に「一週間以内にイエス、ノーの返事をくれ」と依頼したのです。食事会の場で僕を首実検していたのですね。
 結果、三行とも一千数百億円の融資を約束するという書面、コミットメント・レターをくれました。入札の際には、これをジフ・デービスに渡すのです。
 初対面から一週間で、一千数百億円の資金を無担保無保証で調達することに合意してくれたのですから、日本ではとても考えられないことが起きたと、そのときは本当にびっくりしました。
 でも、結局そのときは、ジフ・デービスは買えなかったのです。入札直前の土壇場で、アメリカの会社にひっくり返されました。資金は用意できたし、入札にも絶対の自信を持っていました。ところが、夕方五時が入札の締め切りだったのですが、その五時間前の正午に「入札は終わった」という電話がかかってきたのです。
 どういうことかと問いただすと、M&Aを専門にやっている会社が、単独交渉権を得て買収していたんです。つまり、入札前に破格の条件を出して交渉して、イエスかノーかを迫る。イエスならその額を現金で払うが、ノーなら入札そのものに参加しないという強談判です。
 ソフトバンクが最有力だが、当日までに資金がそろえられるか不確定に見られていたので、そこを突かれたわけです。本当にがっかりして、詰めていたモルガン・スタンレーの事務所からホテルに戻ると、四、五日徹夜の連続でしたから、すぐベッドで寝てしまいました。目が覚めたのが夕方の五時五分前、そこでハッと気がついたんです。
 とられたのはジフ・デービスの出版部門だが、展示会部門とデータベース部門が残っているぞ、と。展示会部門はコムデックスに次いで世界で二番目ですが、コムデックスも買収できたら、展示会部門で圧倒的ナンバーワンになれると思ったのです。
 以前、ソフトバンクが上場前に、コムデックスが売りに出るかもしれないという噂を耳にして、創業者でグループの会長のシェルドンさんに会いに行ったことも思い出しました。
 竹村 まだ株式公開もしていない会社の三〇代の社長が、世界一のイベントをやっている企業を買おうとトップに会いに行った。厚かましいけどもそこがすごい。
 孫 がっかりして、詰めていたモルガン・スタンレーの事務所からホテルに戻ると、四、五日徹夜の連続でしたから、すぐベッドで寝てしまいました。目が覚めたのが夕方の五時五分前、そこでハッと気がついたんです。はっと気がつくと、すぐに、「入札する。ただし展示会部門だ」と電話しました。でも展示会部門の値段をチェックして、資金的条件を見直すには五分では時間がなさすぎます。入札時間を深夜零時まで延長してもらって、締め切り直前、われわれは買収の値段をはじき出しまして、見事落札しました。夜が明けるとすぐ、コムデックスのオーナーに連絡して、その後直談判しました。五分で買収成立です。この結果、展示会では名実ともに圧倒的に世界一の会社になったわけです。

 「孫正義大いに語る!!」(竹村健一)