昨日795 今日862 合計157478
課題集 黄ヌルデ の山

○自由な題名 / 池新
○未来 / 池新

○「広告は」を読んで / 池新
★アメリカ風のおいしくないパンの(感) / 池新
 アメリカ風のおいしくないパンの物語は、貧乏なスミス夫人が、わずかなお金の節約とおいしくて栄養価の高いパンを家族で食べるために自分で焼き始めるというところから始まる。ある日訪ねてきた友人がスミス夫人のパンのおいしさを誉め、スミス夫人はその友人にパンをプレゼントする。その友人の一家は、スミス夫人のパンがあまりにおいしいので、スミス夫人に週に必要な分だけお金を払ってパンを焼いてもらうこととなる。スミス夫人のほうも、そうやってもらうお金が家計を潤すので、喜んでパンを焼く。このようにして次第に口コミでスミス夫人のパンのおいしさが広まり、スミス夫人はオーブンの能力の限界ぎりきりまでパンを焼くことになる。
 その年のクリスマス、スミス氏はもっとパンの焼けるオーブンをスミス夫人にプレゼントし、スミス夫人が焼いたパンを食べる人がさらに増える。最初は子供たちが手伝っていたのだが、それでは手が足らなくなって、スミス夫人は手伝いの人を雇う。地元の商店では、スミス夫人が必要とする上質の小麦粉といった原料を必要なだけ用意することができなくなり、そこで、スミス夫人は一般用の安い原料に切り替える。このような原料は安い上に、大量に注文しても品切れすることはめったにない。
 数年もしないうちに、スミス夫人とスミス夫人が焼くパンの味は有名になり、多くの人がスミス夫人のパンをロにするようになる。もっと多くの人たちに配達するためにスミス夫人は一台目のトラックを買う。こうして、彼女は、人事管理、物品購入、伝票処理、会計、製パンのほかに配達もはじめることとなる。より遠くにいるより多くの人たちに配達するため、パンは前日に焼いてしまうことになり、また大量に焼くためにどうしても焼き方は生焼けにならざるをえない。配達先が増えるにつれ、配達の間隔も毎日から、週に三度、週に二度というように間があくようになり、より長い間商店の棚に置かれても「新鮮さ」を保つために、保存料などの添加物を加えざるを得ないということになる。
 ある日気づいてみるとスミス夫人は、スミス夫人製パン株式会社の裕福な社長になっており、その会社の食パンを多くの人たちが食べているが、もはやスミス夫人が家族やごく親しい友人のために焼いていたあのおいしくて栄養価の高いパンではなく、ごく普通の余りおいしくない食パンに変ってしまっている。スミス夫人が焼いたパンからスミス夫人製パン株式会社が焼いたパンになるまでの間のどこかでこのように変ってしまったのである。
 (「システムづくりの人間学」G・M・ワインバーク著・木村泉訳)