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課題集 黄クリ の山

○「むかしの僕は」を読んで / 池新
 さて、ありすぎるほど空き家があるということは、みんながもっと広い家に住むための物理的条件を十分に満たしているということである。新たにもう一軒家を建てることにより、いままでより広い家を建てることがいま必要なのだ。そこで、もっと広いところに住みたいと思っている人が、損をしないで、できたら得をしながらその欲望を満たすことができれば、条件は整う。
 これを実現するためにもっとも自然体で、あまり金も手間もかからず、しかも確実な方法がある。それは一番金持ちの人がもっと大きい家を建てること、あるいはもっと大きいマンションを買って移ることである。
 そうするといま一番の金持ちの住んでいる住宅が空き家になる。
 町一番の金持ちは空き家をそのままに放ってはおかない。金持ちはケチだから、言って悪ければ経済観念が発達しているから、そのまま置いておくようなことは絶対にしないものだ。そこで彼の次の行動は、その住宅を誰かに売るか貸すことになる。
 売るか貸すかのどちらにするかは、もちろん人によって異なる。その人のキャッシュフローによりけりだ。金がたくさん余っていて不動産で持っているほうが得だと思えば貸すだろうし、もっと大きいところに移るのに手元不如意だと感じれば、売りたいと考えるだろう。
 それでは、一番の金持ちが売る、あるいは貸す家には誰が住むのか。二番目の金持ちである。彼らがいま住んでいる家より、一番目の金持ちの住んでいる家のほうがいいからだ。また二番目の金持ちなら、そのくらいのグレードアップも余裕を持ってできるからだ。そこで二番目の金持ちは、一番目の金持ちの住んでいた家に移転する。
 そのときの売値もしくは家賃はいくらになるか。それは二番目の金持ちが払える価格または家賃である。二番目の金持ちが払える不動産価格より高かったら誰も買い手がつかないし、払える家賃を超えたら借り手のつきようがないからだ。
 その次には、二番目の金持ちがいままでの住まいを売りに出すか貸家にする。そこへ、三番目の金持ちが入ってくる。買値または家賃は、やはり三番目の金持ちが払える範囲の不動産価格、家賃である。
 そうやって金持ちから順に、一つずつグレードアップした広い家に住み換えていくと、めぐりめぐって、普通のサラリーマンにもちょっと小金持ちの家が手に入るようになるのである。ごく普通の人が払える不動産価格か家賃で、小金持ちが住んでいた、ワンランクアップのマンションか戸建て住宅に引っ越せるようになるのだ。
 そして今度は、普通の人が手放す、あるいは貸そうとしている住宅に、少々貧乏な人が入居するのである。それでは貧乏な人たちがいままで住んできた住宅はどうなるのか。もはやそこには入る人がいないので空き家になり、それを集めて再開発されることになる。
 こうして、みんながそれぞれ住宅をレベルアップしているなかでの再開発だから、よりよい住宅、よりよい環境を求める新しいニーズに応えなければならない。町もきれいになるし、第一番の金持ちが引っ越したところより、さらに立派な家を建てるのにふさわしい立地が生まれるだろう。
 そして第一番目の金持ちがそこにもっと立派な住宅を建てて引っ越せば、二番目もそれに続き、今度はツーランク上の住宅レベルが普及する。
 私がここで、ことさら金持ちにこだわってみせたのは、気まぐれでもたまたまの偶然でもない。住宅のような高い買い物での全体的なしベルアップは、所得の低いほうから上げていこうとしてもなかなかうまくいかないものなのだ。
 もっと市場のメカニズムに任せ、人間の欲望に任せたほうが実際にはうまくいくのである。人間は誰しも潜在的にもっといい生活をしたい、もっと豪華にぜいたくをしたいという欲望を持っている。
 一番の金持ちはその欲望を容易に実現できる力(金)を持っている。そして一番の金持ちがいままでにないようないい家、素敵な豪華な家を建てて住めば、二番目以下の人たちに、もっと広い、いい家に住みたいという夢を与え、意欲をかき立てることになる。それは一番目の金持ちにしかできないことなのである。
 だから周囲はそれを邪魔してはいけない。、われわれは六〇平米の三DKにしか住めないのに、金持ちだからといって一〇倍以上の広さの家に住んで、庭にプールをつくったり、あんなぜいたくな家具を入れたりして。あんなに豪華な家を建てられるなんて、よっぽど悪いことをして稼いだに違いない」と考えるのは勝手だが、そういう嫉妬心で規定されている間は人々は幸せになれない。
 そんなことを言い触らすよりは、自分ももっと金を儲けて、立派な家を建ててやろう、あるいはいまの収入でもっと広い家に住める方法はないかと考えたほうが、自分のためにも日本経済のためにもはるかにプラスになるのである。国民も政府も、金持ちの邪魔をせず、これを加速するべく、自分たちもその気になったらいい。
 そういう意味でも、所得制限などという的外れな邪魔はすぐにもやめなければならない。
 
 (堀紘一「不況に勝ち抜く」)

○自由な題名 / 池新

○服 / 池新