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課題集 黄ケヤキ の山

○自由な題名 / 池新
○寒い朝、体がぽかぽか / 池新


★ヨガの哲学の中に(感) / 池新
 ヨガの哲学の中にね、「身に病ありとしもいえど、心まで病ませるな。運命に非なるものありとしもいえど、心まで悩ますな」という教えがあるんですよ。これを私はじいっと考えてみた。
 「そうか、体の病は体だけで、心まで病ませる必要ないんだな。運命は運命だけで、心まで何も運命の中へ紛れ込ませる必要ないんだ。しかし、確かにそれはそうに相違ないということはわかっているんだけれども、なかなかそういう気持ちになれないな。しかも、俺ばかりじゃない。右むいても、左むいても、だれもみんなできないんだ。しからば、できないのが本当かしら、できるのが本当かしら?」
 そのちょうど考えているときに、カリアッパ先生が「お前ねえ、人間、この世に何しにきたか考えたことがあるかい」と言われたんです。そう言われたときにねえ、はっと私は驚き以上あきれたよ。今まで外国の偉い奴に会ってきたけれども、こんなりっぱな質問をされたことはない。インドの山の中にいながら、何という質問をするんだろう。
 しかし、よく考えてみたら、この男の言う質問はりっぱな質問かもしれないけれども、人間同士の質問じゃないなと思ったんです。無学な当時の私をお笑いください。私はこう考えた。
 「やっぱり、ヒマラヤの山の中で育っている奴だけあって、りっぱな哲学を知っているとはいいながら、時々へんなことも言いやがるな。じいっと話をしていると、よくわけのわかるようなことも言うかと思うと、時々臍を頭へつけるようなことを言いやがる。何だって?人間、この世に何しにきた?正当に言えば、人間それ自身の生まれながらもっている使命は何だ?この男、へんなことを言いやがるなあ」
 こっちの頭が違ってるのに、向こうの頭が違ってるように思っちゃって、私はこう言ったんです。
 「あのねえ、おっしゃることはとても難しいことです。というのは私はね、人の注文を受けてこの世の中に出てきたんじゃありません。人間になってから何年かの後、はっと気がついたら生きてたんだ。その人間にどんな使命があるだなんてお尋ねになったって、それがわかろう道理がないじやありませんか」
 りっぱな答えだと私は思ったんだが、どう?
 (中略)
 しかし、二月三月考えてるうちに、ああ、これはとんでもない間違ったことを言っちゃったと思った。いわゆる「盲、蛇に怖じず」とはいえ、あんなことを言ったときに、あの人は私を馬鹿だと思ったろうなあ、と。
 そこで、三月目にようやく考えついたことがあるんで、
 「先日のご質問にお答えしたいと思います」って言ったら、
 「質問って何だ?」
 「人間この世に何しにきたのか、とお尋ねになりましたが……」
 「ああ、そうか。それで?」
 「人間はこの世の中に、宇宙本来の面目である進化と向上に順応するべく、出てきたんだと思います」
 「偉いこと言うたなあ!ときに、どうしてお前、そういうことがわかったの?」
 「私は、じっくり考えてみました。この世の中のすべての進化も向上も、ひとりでに進化し、向上したんじゃないじゃないか。人間の頭で考えた事柄がいろいろの設備や組織になって、この世の中が進歩してきている。そうすると、俺も人間の一人だ。病で明け暮れ小さな人生に生きているのが俺の人生じゃないはずだ。それを、だれの注文も受けずにこの世に出てきましたなんて、無鉄砲なことを言っちゃったんだけど、ああとんだことだと……」
 そしたら、「おお、よくわかったな」と言われたよ。じっと三か月考えている間に、私はそう思ったの。
 「成功の実現」(中村天風著)