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課題集 黄カキ の山

○自由な題名 / 池新
○ペット / 池新


★農業やサービスでは(感) / 池新
 農業やサービスでは、生産価値が小さい傾向がある。これは食料需要などは肉体的ニーズによって制限されるからだ。所得が増えたからといって、ずっと多くの米や魚を食べられるわけではない。しかし製造業についてはそのような制限はない。金持ちになったら、より高価な自動車、コンピュータなどに買い換えることができる。
 サービス業でも、生産価値は低い傾向がある。なぜなら、サービス産業では技術を絶え間なく向上させるのは難しいからだ。レストラン、ホテル、航空会社、バス、鉄道、保険会社、銀行、教育、法律上のニーズ、小売業などで生産性を向上させる余地はむしろ限られている。比較的生産性が低いため、これらの分野の生産価値は、生産性および生産性伸び率がずっと高い傾向をもつ建設業や製造業より遅れている。要約すると、建設業と製造業が生産価値が最も高く、サービスと農業が最も低く、鉱業はその中間である。
 多様化された経済とは、様々な産業がバランスよく混ざった経済である。一方、極性化・特殊化された経済とは、いくつかの特定のセクターだけに偏り、他のセクターがほとんどない経済をいう。前述の各産業の中で、建設業は基本的に非貿易産業である。つまり、セメント、煉瓦、木材、プレハブの壁、構造などの建設用資材は輸入することができるにしても、完成された住宅を輸出入するのは大変難しい、ということである。もちろん、国は他の四つのセクター(製造業、鉱業、サービス、農業)で特殊化あるいは多様化することができる。一九七〇年までほとんどの国は多様化経済だったが、その後、だんだんと特殊化が始まった。カナダとオーストラリアは鉱業と農業、アメリカが農業とサービス、日本は製造業で、特殊化した。このように日本は生産性の高いセクターで特殊化し、アメリカ、カナダ、オーストラリアは生産価値の低い産業に集中した。案の定、日本が他の先進経済より速く成長し続けた。実質賃金は、オーストラリアとアメリカでは一九七三年から下がり始めた。日本では税引前の賃金は少し上がり、税引後は不変だった。
 言い換えれば、偏った産業は、たとえそれが価格の高い製品セクターに集中したとしても、労働者に害を与えるということだ。一九七〇年代の初期から生産性が向上し続けているにも係わらず、日本ですら、税引き後の賃金は上がっていない。一方、北米やオーストラリアでは、生産性が向上しているのに、実質賃金が減っている。輸出セクターへの特殊化を好んだタイガー経済では、成長は速かったものの、賃金は非常にゆっくりと上がった。これはプラウトの理想とする発展形態ではない。
 多様化を支持するもう一つの要因は、世界中が製造業をめぐって競合しているということである。製造業は農業やサービスより生産価値が高い傾向にあるため、すべての国々は製造業で利益を得ようとする。だからこそアメリカは日本に、質が劣っていようとアメリカ車の輸入を要求するのだ。今やすべての国が製造業を特殊化することは不可能である。世界には、すべての国の余剰工業品生産を支えるほどの需要がないからだ。自動車産業がその例である。日本では自動車の生産能力は、年一千二百万台である。アメリカでは、二千万台である。しかし、アメリカと日本の自動車需要は、合わせて二千二百万台しかない。この二つの国で一千万台分の余剰生産能力があることになる。これが現在、両国で賃金が停滞している理由の一つである。また、これは資本の大きな無駄遣いであり、それはどこか他の所で、効率的に利用できたかもしれない。
 世界から貧困をなくすために、どの国も、可能であれば生産性が高く、高い賃金を支払う何らかの工業品を生産する必要がある。そして、賃金の高いセクターをもつことによって、高品質の住宅やサービスへの需要も増してくるのが一般的である。このように、活気のある製造業が、活気のある他の産業を生み出すためには欠かせないのである。充分な製造業がないと、経済は停滞する傾向がある。製造業が少ないことは、賃金の高いセクターが小さいということを意味するからだ。それによって、住宅やサービスへの需要も低下する傾向がある。そうなると、経済全般にわたって実質賃金が低下する。したがって、どの国も、国内のニーズを満たすために、できる限り多くの工業生産を行うことが必要である。たとえ生産性や品質が他の国々ほど高くなくても、こうする必要がある。なぜなら、製造業は健全な経済にとって必要不可欠だからである。
 アメリカ、日本、カナダの経験を見ると、これらの国々の労働力の約二五%から三〇%が製造業で雇用されていたとき、実質賃金伸び率がその頂点に達したことがわかる。これは一九七〇年代初期までのことだった。一九七〇年代後半から一九八〇年代には、製造業における雇用の割合は、カナダとアメリカでは急激に減少し、日本では少し増えた。現在、北米大陸の製造業で雇用されているのは、労働力のたった一六%である。これは一九世紀のカナダ、アメリカの水準とほぼ同じである。北米大陸はそのダイナミズムを失い、労働搾取の主要拠点となった。そこでは一部のサービス労働者の実質賃金は、第一次世界大戦前に一般的だった賃金以下になっている。こうして一九七〇年代の初期以来、アメリカやカナダの産業中核地域が荒廃してきたのである。製造業が縮小しすぎると、こういうことになる。
 
 「株式大暴落」(ラビ・バトラ)たちばな出版より