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課題集 黄カキ の山

○自由な題名 / 池新
○学校、危機意識 / 池新


★すべての経済の基本にある(感) / 池新
 すべての経済の基本にある、根本的な経済要因は、需給関係である。他のすべての要因は、このメカニズムを通して機能する。したがって、ある経済システムの健全さを調べるためには、需要と供給のバランスがとれているかどうかを調べればよい。バランスがとれていない場合、そのシステムは遅かれ早かれ崩壊する運命にある。
 供給は、生産あるいは労働生産性から生まれ、需要は賃金から生まれる。賃金が生産性に比例して上がれば、需要と供給は均等に伸び、バランスが保たれる。しかし、賃金の伸びが生産性より遅すぎるか早すぎると、バランスは短期的には他の要因によって人工的に保たれるかもしれないが、長期的にはインフレ、あるいは景気後退および不況という形で、問題が起こる。需要が供給より早く伸びる場合、物価が上昇し、インフレが起こる。その反対に、賃金が生産性に遅れをとると、需要の増大が供給の増大より遅くなり、インフレが減り、失業が増える。企業が売れない商品を抱え、労働者を解雇するからである。
 日本でも、アメリカでも、一九八〇年代から一九九〇年代にかけて、賃金の伸びが生産性の伸びに劣っていた。これは、第二章でも述べたように、日本ではすでに一九七〇年代半ばに始まっていた傾向である。アメリカでは、一九八二年に厳しい不景気が終わるのとほぼ同時の、一九八〇年代初期から問題がくすぶり始めた。その不景気とグローバル化の進展によって、労働者の大多数の実質賃金、すなわち給与の購買力が減少しはじめた。この事実は、『大統領経済報告書』その他多くの著名な本に詳しく記録されている。実際、一九八九年までは、減ったのは実質賃金のみで、共稼ぎ家族の実質所得は上がり続けていた。しかし、一九九〇年の不景気の後、実質家族所得も減り始めた。この間ずっと生産性は向上し続け、需要と供給の間にギャップが広がり始めたのである。
 人口の増大そのものが需要の増大を生み出したが、賃金の停滞により、需要の伸びは生産性の向上による生産高の伸びより遅れた。需要の伸びを制限するもう一つの要因は、税負担が富裕層から貧困層へ移ったことである。一九八一年以降、主に富裕層が支払う所得税率は下がり、逆に貧困層や中産階級がその大半を負担する社会保障税は上がった。富裕層が税引き後の所得の中から消費に回す割合は、貧困層のそれより小さいため、税負担の変化によって、需要の伸びはさらに抑制された。
 需給ギャップは、しばらくの間は他の要因によって穴埋めすることができる。例えば、日本では、供給の増加分を輸出し、それによってギャップが取り除かれた。日本の場合、問題は一九九〇年まで先送りされ、その年に株式市場が暴落したとき、国内需要が減り、アメリカはそれ以上の対日本貿易赤字の増大に抵抗した。アメリカでは、銀行融資と消費者負債によって消費者需要が人工的に引き上げられ、需給ギャップは取り除かれた。低金利の銀行融資は、住宅および企業の投資支出を刺激した。投資支出は短期的には需要を引き上げるが、長期的には供給を増大させる。
 需給ギャップが取り除かれると、収益が急激に増えた。なぜなら賃金コストが減る一方で、生産性が上昇するからだ。会社が給与の高い労働者を切り、給与の安い労働者を雇う企業ダウンサイジングも、労働コストを抑えるのに役立った。こうして、収益は上昇し、株価も上昇した。そして、ドイツと日本から資金がどんどん流れ込み、株式市場の上昇は、投機バブルへと変わっていった。
 同様のプロセスが世界中で起こった。賃金の伸びが生産性の伸びより遅れたのに、消費者や企業に対する銀行貸出が、広がりつつある需給ギャップを埋めた。また、収益も株式市場とともに急上昇した。
 バブルぎみの成長過程は、一〇年間あるいは一五、六年間も間断なく続くことがある。一九二〇年代には、この傾向は一〇年間も続かなかった。日本では一五年間続き、その後、突然止まってしまった。一五年以上続いたことは歴史上ほとんどない。
 現在の地球規模の投機熱は一九八二年半ばに始まった。そして、幾度かの短期的な落ち込みはあったものの、一九九七年半ばのタイの通貨崩壊まで続いていた。今や市場は暴落しつつあり、投機も崩れ去り、清算の時が始まった。銀行が貸出を遅らせたり、負債を負った消費者が借入れを減らすと、投機的な成長過程が終わる。人工的な需要の支えが消え、しばらくの間隠されていた需給ギャップが表面化してくる。潜在的ギャップが隠されていた期間が短ければ、その後に起こる不景気も短命に終わる。しかし、それが一〇年以上も隠されている場合、株式市場は暴落し、大不況が起こる。ギャップが長期間かつ深刻なものであればあるほど、それに続いて起こる苦痛と不況もその分だけ深刻になる。もう一度強調しておこう。生産性は供給の源であり、賃金は需要の源である。その二つの間のギャップが増大すれば、一九二〇年代のように、まず、株式市場が急上昇し、そして暴落する。暴落は一九二九年にアメリカで、一九九〇年代に日本で起こった。そして、一九九七年には、日本、東南アジア、ラテンアメリカで起こっている。
 
 「株式大暴落」(ラビ・バトラ)たちばな出版より